第1回ベルギー王国ビール探訪記(5)

◆幻のトラピストビール:ウェストフレテレン WESTVLETEREN

Westvleteren Cap 4 8 12 修道院では、古来、パンやチーズ、ワインなどを自らの手で作り、自給自足の生活を送っていた。 北方の修道院ではブドウ栽培が出来ないので、ワインの代替としてビールを生産してきたが、時代とともにビールを醸造する修道院は減少し、現在では世界で6カ所だけになってしまった。そのうち5ヵ所がベルギーにあり、オルヴァルシメイ、 ロシュフォールウェストマレウェストフレテレン という5銘柄が醸造されていて、これらをトラピストビールとして分類*2する。

*2 なお、トラピストビールとは別に、修道院では製造していないが修道院の名前を借用したり、 昔の修道院ビールのレシピに基づき製造したり、修道院的な名前を付けるなどした、味わいがトラピストビールに似ているビール が多数存在している。これらはアベイABBAYEビールと呼ばれ、区別されている。

 スーパーマーケットの酒売場では、オルヴァル、ロシュフォール、ウェストマレの銘柄はよく棚に並んでおり(どれも35BF(約140円) 前後で販売)、入手しやすい(ただし、ロシュフォールEだけは見かけなかった)。日本で代表銘柄として知られているシメイも並んでいる。 しかし、ウェストフレテレンは全く見かけることのなかったビールである。

 実際、ウェストフレテレンを生産するシント・シクティス St.SIXTUS修道院は、小さな修道院なので、ビールの生産量が少なく、現地でも入手が困難なビールだという。 当然日本には輸入されておらず、飲むことができない幻のビールである。このビールには、3タイプがあるが、瓶にラベルが張られていないので、王冠の色で区別する。

  ◆「スペシャル」は赤色の王冠で、比重が「6」。アルコール度数が6.2%。
  ◆「エクストラ」は青色の王冠で、比重が「8」。アルコール度数が8%。 
  ◆「アブト」は黄色の王冠で、比重が「12」。アルコール度数が11.5%。 

 そのウェストフレテレンについて、世界的なビール評論家のマイケル・ジャクソン氏は、著書の中で以下のように記述している。

“ この醸造所はほんの僅かしか生産できないので、修道院内の販売所で売られるほか直営のカフェでしか飲めません。”
“ 買える日が限られ、手に入りにくい”
“ 修道院の近くの人たちは、自転車に乗ってビールを買いにきます。フランスやオランダから車でやっ てくる人もいます。みんな朝早く修道院につくと車を駐車場に入れ、それから販売所の前で列をつくってビールを買う順 番を待ちます。ウェストフレテレンの醸造所では、毎日ビールをつくっているわけではありません。できたときだけ売り に出されます。 「ウェストフレテレン 」は、いつでも手に入るビールではないのです。とくに強いビールがストックされると、情報がパーッと広が ります。ビールの販売所には『売り子僧』がいて、ケースで売っています。そこで飲みたい人は、修道院の近 くの『カフェ・デ・ヴレデ(自由亭)』に行かないと飲めません。”*3
>*3 マイケル・ジャクソン著『地ビールの世界』P232〜234(柴田書店:原題 「THE GREAT BEERS OF BELGIUM」)

  なるほど、これではベルギーへ行ったとしてもウェストフレテレンを飲むのは容易なことではではないぞと日本出発前から思っていた。

ウエストフレテレンを味わう  ところが、ベルギーに着いた初日の夜、アントワープのビア・カフェ、クルミナトゥールで、メニューの中に意外にもその名前を見つけことができた.。メニューには、ヴィンテージの 違いを含めると6種類のウェストフレテレンが掲載されていたが、そのうち90年代のヴィンテージ3種は売り切れ。 「DUBBEL 1982」と「ABT 1987」を注文する。出てきた瓶には確かにラベルがない。 錆びている王冠を見て間違いがないことを確認したが、さて緑色の王冠である。それは修道院内部向けとい う度数の低い、比重「4」のビール、「DUBBEL」であった。 ただでさえ珍しいウェストフレテレンなのに、その中でも市販されていないビールが飲むことができるとはなんという幸運! グラスにもちゃんと「WESTVLETEREN」の文字と「ST. SIXTUS」修道院の文字が書かれているオリジナルグラス。感動ものである。    
  さて、色はどちらもダークであり、80年代のビールなので、すでに古酒の味わい。なめらかでスムーズな喉ごし だが、発泡感が明らかに衰えている。それでも本来の味わいとは異なるが、古酒という範疇において旨いビールとするべきなのであろう。

Kuluminatorのメニューから

WESTVLETEREN(ABDIJPOORT):         

* DUBBEL GROENE STOP 4GR 1/3 1982 170
/ * SPECIAL ROODE STOP 6GR 1/3 1994 95 /
/ * EXTRA BLAUNE STOP 8GR 1/3 1990 130 /
/ * ABT GEELE STOP 12GR 1/3 1993 150 /
* ABT GEELE STOP 12GR 1/3 1987 195
* ABT GEELE STOP 12GR 1/3 1982 260
 

 その後、たまたまサベナ・ベルギー機内誌に紹介されていたブリュッセルのビア・カフェ、 ビア・サーカスに行って再びびっくり、メニューにウェストフレテレンが載っている。3種類掲載されていたが、あるのは 「G」だけだというので、それを注文。
 出てきたのは、ビールが注がれたグラスと王冠のみ。王冠を確認すると青色で、「エクストラ」に間違いない。 外見は同じトラピストビールのウェストマレ・ダブルのようなダークな色だが、味わいは濃醇ではなく、 軽くスウィートな感じで、麦芽風味とコクがある。ついにフレッシュなウェストフレテレンを味わうことが出来て、 出発前からの念願は叶ったが、まだ味わっていない「スペシャル」や古酒でない「アブト」 を味わうためも、再びベルギービール探訪の旅に出たいと考えている。  

                                   (奉行) 
     
  トラピストビールの種類
(BELGIUM)
CHIMAY BLEUE 9.0゜  
  BLANCHE 8.0゜  
  ROUGE 7.0゜  
ORVAL ORVAL 6.2゜>  
ROCHEFORT I 11.3゜  
  G 9.2゜  
  E 7.5゜  
WESTMALLE TRIPEL 9.0゜  
  DUBBEL 6.5゜  
WESTVLETEREN ABT K 11.5゜  
  EXTRA G 8.0゜  
  SPECIAL E 6.2゜  
(HOLLAND)      
KONINGSHOEVEN KONINGSHOEVEN TRIPEL 8.0  
(SCHAAPSKOOI修道院) KONINGSHOEVEN DUBBEL 6.5  
KONINGSHOEVEN BLOND 6.0  
  LA TRAPPE TRIPEL 8.0  
  LA TRAPPE DUBBEL 6.5  
  LA TRAPPE ENKEL 5.5  
リンク: シメイ修道院のホームページ(日本語版あり)へシメイ修道院のホームページへ
オルヴァル修道院のホームページ(英語版あり)へオルヴァル修道院のホームページへ

目次

ベルギービールの魅力
酒蔵奉行所関連

Copyright(C) T.Nawa 1999