第3回ベルギー王国ビール探訪記(12)

6日目(2)
  
1.ドリー・フォンテネン
2.レストランで食事
3.いよいよ帰国(8日目)

 DRIE FONTEINEN ドリー・フォンテネン

DRIE FONTEINEN
ドリー・フォンテネン

 Oud Beerselのカフェを後にした我々は、車ですぐのところにあるランビックビールのブレンダーとして名高いDRIE FONTEINEN(ドリー・フォンテネン)を訪れた。店の名前は3つの泉という意味である。

 店についたら、まず醸造設備の案内を受けた。我々を案内してくれたのは、アルマン・デベルデールArmand Debelder氏。この醸造所の2代目で、弟さんが料理・経営をやり、自らは醸造を担当しているという。

 アルマンさんは、ランビックメーカーから未完成のランビックを購入し、それらをブレンドして各種のランビックビールを造るランビックビールのブレンダーである。その絶妙なブレンド技術により造られたランビックビールは、もともとのランビックビールメーカーが製品として発売しているビールを超える味わいを見せ、非常に高い評価を得ている。
 ブレンダーは、昔は多数おり、ブレンドはどこの店でも行われていたということだが、今、ブレンダーとしてやっているのはハンセンHansensと新しく加わったデ・カムDe Camだけである。

天井を指差すアルマンさん

 店(醸造所)の名前「3つの泉」の由来は、@ジラルダンGirardin、AリンデマンLindemans、BブーンBoonの3つのランビック醸造社のランビックをブレンドするところから来ている。 醸造設備の部屋はレストランを突き抜け、建物の奥の方にある。レストランに併設の醸造所ということで、お客さんにも醸造設備が見えるよう、ガラス越しに見せるような設計になっていそうだが、この店は一般の人には見えないようになっている。

 醸造設備といってもブレンダーなので、ブレンド設備とその後の樽発酵・樽熟成の蔵がある程度かと思っていたが、大間違い。1998年から自ら醸造プラントを持って、ランビックビールの生産を開始したのだという。部屋には近代的な小規模な醸造設備が並んでいる。部屋の2階には開放式の冷却漕があり、天井にも天窓があり、野生酵母がこの醸造蔵に入るように設計されているようだ。ランビックビールを醸造する環境は整っている。しかし、話によると、もう1種類の上面発酵のビール(Beersel)を醸造しているという。

手書きの醸造プラントの設置図を見せてくれた。(天井の天窓や冷却漕も見える。)
開放式の冷却層 新しいビールBeerselを持ちながら説明

 出来上がったランビックは、木樽に入れられ発酵させられる。発酵・熟成に使用する樽はいろいろであるが、新樽ではなく、ワインやポートワインなどのお下がりの樽を使用している。特にチェコの有名なピルスナービールであるピルスナー・ウルケルから譲ってもらったという木樽は自慢気だった。
 また、出来上がったランビックは、新しいランビックビールのブレンダー、デ・カムDe Camにも卸すともいう。段々話が混乱してきたようだ。

チェコのピルスナーウルケルの樽も使用されていた。

 さて、地下の倉庫に場を移すと、そこは貯蔵・熟成庫になっており、6列に樽が並べられている。ブレンド前のビールもここに置かれ、この列はリンデマンのもの、この列はジラルダンのものとか、ここはクリークの列など説明を受けた。各樽には、その中身が判るようにメーカーごとの記号や樽詰め年月日がチョークで書かれている。ブレンドの終わった樽からは、再発酵の泡が樽の口から噴出している様子がはっきり見て取れる。

ジラルダン、リンデマンス、ブーンの樽が並ぶ ブレンドにより再び発酵する。

 ここで、アルマンさんは、いくつかの樽の栓を抜いてグラスに注いでくれた。初めはジラルダンの樽からのランビック。カリフォルニアの樽香味がしっかりしたシャルドネ種を使ったワイン風味である。満点★★★★。こんなにおいしいのならブレンドしなくてもジラルダンを熟成させるだけで十分とも思えてくる。次にブーン、ジラルダン、リンデマンの3つのブレンド・グーズ。かなりの酸味があり、樽色がついている。発泡感もよく素晴らしい味わい。これも満点★★★★。アルマンさんは、特にジランダンを最も尊敬しているらしく、ジラルダンのビールのことばかり誉めていた。

ブーン、ジラルダン、リンデマンのブレンドの樽から試飲 ジラルダンの樽から試飲 3 Fonteinenn 製のKRIEK。前年はポーランド産のチェリーを使用したという。

   ★
 再び場所を移し、次は瓶熟成庫へ。そこは、瓶詰めされ、きれいに積み重ねられたビールが眠る場所である。異なるブレンド比率、また異なる時期に瓶詰めされたビールが区画ごとに整理されている。ブレンド比率やブレンド年月日、瓶詰め日などのデータももちろん判るようになっている。この部屋の小さなカウンターで再び、貯蔵されている瓶を1本試飲。それは「CAVEAU 4→8、 6.3.95、 0.75L×3155、 2366l、Uitslag 31.01.98」と書かれた区画からの1本で、3年もの(95年から98年の3年間の意か?)のグーズとのこと。木樽味がまだアンバランスでまろやかさに欠けるが、香味は素晴らしい★★★★。もう少し熟成させることで、さらにおいしく成長することが期待できそうである。

瓶熟成庫 グーズには白い石灰塗料が塗られている。1本だけ透明な瓶に詰められ、中のビール色が判る
「CAVEAU 4→8」区画のグーズを試飲。カウンターには、新しく醸造を始めた上面発酵ビールBEERSELとグーズMILLENIUM GEUZE(3FONTEINEN−DE CAM)の2本が陳列してある。

 この貯蔵庫には、よく見るといろいろ気になる物がある。透明な瓶に詰められたビールは、熟成途中の色や澱を確かめるためだという。一番奥の棚には相当古い秘蔵のビールが置いてある。床に置かれたケースの中にはブーン、ジラルダン、リンデマンの他にTimmermanのラベルが貼ってある瓶なども見える。また、ここで醸造を始めたという上面発酵のビールBeerselやグーズMillenium Geuseがカウンターに置かれている。雑誌や新聞の切り抜きが壁に貼ってあり、どうもブレンダーの話の記事のようで、アルマンさんのほかに写真に写っている人について尋ねると、「その人はハンセン氏で、友人である」という。数少ないブレンダー同士の交流があるのであろう。
 輸出は考えていないのか尋ねると、「絶対に輸出しない!」と断言していた。製造量がもともと少ないのに加え、輸出手続きとかが面倒だということらしいが、本物のランビックビールを愛するファンとしては非常に残念な回答であった。
  

 ドリー・フォンテネンで食事

カウンターのサーバーからクリークを注ぐ

 貯蔵庫を後にして狭い階段を登ると、レストランのカウンターのすぐ脇に出てきた。
 一同席について、今回の旅行の打ち上げパーティとなった。ドリー・フォンテネンは、ビールを使った料理でも有名な店で、おいしい料理を食べながら、再びビールを味わう。まずは、クリーク樽生。アルマンさんがビア・サーバーから注ぎ持ってきたビールは、非常に甘いビールである。倉庫の中で、昨年のクリークはベルギー産のものは出来が悪いのでポーランド産のものを使用したと言っていたのは、このビールのことだろうか。樽の香味はしっかりしており、コクもある。甘味は好き好きであろう。一般的にこの醸造所のクリークは、瓶詰め物は辛口で、レストランで味わう樽生は甘いと言われていたが、それは本当である。

グーズは泡立ちが非常によい ランビック クリーク

 次にランビックをいただくが、これは100%ジラルダンの原料によるランビックであるという。泡立ちが非常によく、酸味もある。料理のウサギや、ビーフにも合う。このビールをドリー・フォンテネンのビールと言ってよいのかどうかは別として、貯蔵庫で味わったジラルダンのランビックともまた少し異なった味わいのビールであった★★★★。最後にグーズを味わう。酸味が強烈で、ジラルダンの個性をそのまま受け継いでいるようなビール。香味ともに酸をはっきり感じるが、味わいのバラスは取れている。木樽の味がするが、まろやかではない★★★★。
 ここまで、ドリーフォンテネンのビールを味わって感じたことは、樽ごとに異なった個性があるということ。様々なブレンドの比率があり、必ずしも3つの醸造所のビールをブレンドするわけでもなく、また、単にランビックという場合は、ブレンド前のビールが、ドリー・フォンテネンの名で客に提供される。さらに、自家醸造のランビックまで登場しようというのだから、ますます複雑になってくる。
   ★
 さて、おいしい料理もいただいている中、アルマンさんが、『ベルギーグルメ物語』(主婦の友社、1997年8月)』を持ってきた。この店を訪れたときの事情が詳しく書いてあるのだが、著者の相原恭子さんのサイン入りであった。
 デザートのアイスクリームやコーヒーまで一通りコースをいただき満足状態。この醸造所の貴重なビールを購入したかったが、すでに相当購入していたので、それも無理と思い断念。
 我々一行は、ブリュッセルに戻った。  

ムール貝(グーズ煮)とサーモン ウサギ、チキン、ターキー、牛
【データ】 Stekerij Drie Fonteinen (Herman Teirlinckplein 3 1650 Beersel)
 Tel: 02 .331. 0652 Fax: 02. 376. 07033

 いよいよ帰国

Florival Blonde 7%、
'S Lands Souvenirs 4%

 体調はあまり回復していなかったが、ここまで飲んだビールの種類を数えてみると、まだ、63種類。100種類到達は全く夢だった。それでも、持ち帰る手荷物を減らそうとホテルで最後のビール会。Hoegaarden Witbier、Triple Karmeiet、Grimbergem Blondeを味わう。さらに翌朝、Gildenbier、Florival Blonde、'S Lands Souvenirs、Gordon X'masを無理に味わう。少しは荷物が減ったようだ。
 それにしても、Florival Blondeはホップの香りはあるが砂糖の甘味のような不快な味である。De Leeuw Br.製で、スーパーのDELHAIZEブランドのビールであった。もう一つの'S Lands SouvenirsはGueuze de Bruxelleとも書いてあり、リンデマンスLindemansで製造している甘味を付けたグーズである。甘い香りはまだ許せるが、酸味が変でバランス悪い。これはベルギー国鉄用(キオスク用)のブランド。こうした委託醸造のビールには良品は少ないようである。
  ★
 帰りの飛行機サベナSN208では、また体調がすぐれず、ビールなど一切のアルコール飲料ばかりでなく機内食もあまり食べられなかった。結局、今回の旅では70種類のベルギービールを味わい20本近くのビールを購入してきた。

(奉行)


6日目(1) 第3回ベルギー王国ビール探訪記飲んだビール一覧

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