第3回ベルギー王国ビール探訪記(11)

6日目(1)
  
1.ビエール・アーチザナール
2.オッド・ベールセル

Bieres Artisanales ビエール・アーチザナル

 いよいよ最終日である。午前中は、山田さんご夫妻と一緒に、骨董店が並び日曜日には骨董市が開催されるグラン・サブロン広場にあるチョコレートの老舗ウイッタ・メールに出かける。ここは『チョコレート・コンパニオン』という本で3つ星の評価を得ているチョコレート屋さんの老舗である。
 次に地下鉄のポルト・ド・ナミュール駅方面にあるBieres Artisanalesビエール・アーチザナールというビールショップにビールの買出しに行くが、午前11時というのにまだ開店していない様子。山田さんご夫妻は他にも買い物があるというので、一旦ここで別れ、また集合したのち、再び来ましょうと別行動。

Le Nemrod Orval 6.2%、120BF

 最高裁判所あたりの街を散策した後、Le Nemrodというカフェに入り、ビールを飲み軽い食事を取る。ビア・カフェとしては街によくある普通のカフェで、品揃えも適度で我々の興味を惹くビールがあるわけではなかった。有名なビールを現地で飲むとどんな味がするのか試すため、オルヴァルOrvalとヒューガルデン・ブロンシュを注文する。オルヴァル(6.2%、120BF)は、スパイシーであるが随分とまろやかな味に感じる★★★★。やはり輸入品と現地での品との味わいの差はビールにおいて現実に存在することを実感した。ヒューガルデンの軽快で飲みやすい味わいは、日本で樽生ビールを飲むのとさほど変わらず旨い。このビールは味わうその場の雰囲気や自分の体調によって味わいがいつも異なって感じるのが不思議である。ただ、季節によってメーカーがレシピを微妙に変えているといううわさもある。

   ★

Bieres Artisanales

 名物のコロッケの料理(Croquettos aux Crevettes)を食べたあと、再び集合し、Bieres Artisanalesビエール・アーチザナールに向かう。
 ビール400種類と銘打たれたこの店での目的はもちろん日本では入手できないビールを購入することにある。店のショーウインドーを先ほど覗いただけでも知らない銘柄が陳列されワクワクしたのだが、いざ店に入るとそこは天国。さらに見たことがないビールが棚に多数並んでいるではないか。ついつい日本に持ちかえることを忘れて、目一杯買い物カゴにビールを入れてしまう。30種類くらい入れてから、さすがにこれは日本には持ちかえれないぞと気が付き、取捨選択。1瓶1瓶、カゴから棚に戻すのがさびしい。
 最後にレジのカウンターにビールを持ちこみ勘定を支払う。ご主人はインターネットを通じてビールの注文をしていたようだ。我々にもこの店のホームページアドレスが書いてある紙を渡してくれて、海外からもメールで注文できる旨を説明してくれた。インターネットによるとこの店の名称は「ビール・マニア」というのが正しい名前かも知れない。そういえばこの店のビニール袋にも「ビール・マニア」と書いてあった。この店のキャラクターは「ビールグラスを持った尼僧」であるのか、その姿は店の看板やインターネト、ビニール袋にもその絵柄が使われていた。

購入したビールをホテルで並べてみたところ

それぞれ、好みのビールを購入したあと一度ホテルに戻る。

 荷物をホテルに置いて、今度は辻村さんと藤原さんも含め全員ホテルのロビーに集合。いよいよこの旅行最後の醸造所を巡りに出発である。ベルギー特有の自然発酵ビールであるランビックビールを生産する村の一つであるベールセルの醸造所へ向かった。

【データ】 Bieres Artisanales /Beer Mania (174 Chausee de Wavre 1050 Ixelles Brussels)
Tel 32.2.512.17.88 Fax 32.2.511.32.
http://www.beermania.be/

OUD BEERSEL オッド・ベールセル

ベールセル城

 数あるベルギービールの中で、というより世界で最も特殊で、最も原始的なビールがランビック・ビールである。今回の旅行は、ランビックビールを堪能する旅でもあった。中でも最も伝統的ランビック・ビールの製造で有名なOud Beersel/Henri Vanderverdenは、ほとんど日本では紹介されていない醸造所である。
 ランビック・ビールは、ブリュッセル近郊を流れるゼナ川流域のペヨッテンランドPayottenlandに生息する80数種類におよぶ野生酵母や微生植物によって世界で唯一造られている自然発酵ビールである。
 このゼナ川流域であるが、ゼナ川渓谷とかゼナ川の谷間とか訳されていて、私は日本の川の渓谷や谷を連想していた。しかし、実際には全く異なっており、ゼナ川は平野の一番低いところを悠々と流れているが、決して谷や渓谷ではなかった。この一帯だけに野生酵母(野生のイースト菌= BRETTANOMYCES BRUXELLENSIS)が生息している理由はわからない。他のベルギーの州とあまり風景が変わらないのである。ただ、車から降りて深呼吸すると、野生酵母が身体の奥まで入りこみそうな気がしたのは私だけではあるまい。

 ベールセルに到着すると、この村唯一の観光名所であるベールセル城に立ち寄る。ベールセル城は、レンガ造りの3つの塔を持ち、堀に囲まれている。14世紀に建設されたが焼失。17世紀に再建後、手が加えられ現在に至っているという。

OUD BEERSEL Henri Vanderveldenの醸造所 醸造所右隣のカフェ

 そこから車でちょっと登った場所にOUD BEERSELの醸造所とカフェがあった。OUD BEERSEL/Henri Vanderverdenの醸造所は1882年から創業ということで非常に歴史ある醸造所である。この醸造所で醸造しているのはオーソドックスにランビック、グーズ、クリークの3種類しかなく、ボトルで販売しているのはグーズとクリークの2種類のみというシンプルさである。しかし、その評価は非常に高くTim Webbの本においてもグーズ、クリークとも5つ星の満点を与えられている。

店内の様子 カウンター

 早速、カフェに入ると店内は、古き良きベルギーがタイムカプセルでそのまま残っているという感じで、お客も地元の人たちだけで落ち着いた店である。ベレー帽をかぶったままの人もいる。都会のカフェとはまた異なった雰囲気をもつ農村のカフェである。
 地元の人たちからすると、我々日本人の一行は、いかにも珍しい一団と目に映ったようだ。 店内を見渡すと、いろいろ興味深いものがある。例えば、マイケル・ジャクソンの本(「世界のビール案内」)にも写真がでていた1920年代にゼナ谷の醸造所が共同キャンペーンをやった折に、各醸造所が作成したというポスターのOUD BEERSEL版や、風刺画家デ.ローゼによるファロを飲む男たちのエッチングのポスター、そして何より大型のストリートオルガンが目を惹いた。このオルガンは近年修復されて、現在は演奏可能となっている。また、そのオルガンに施された彫刻もすばらしいものである。そしてアンチィークなOUD BEEERSELの瓶が飾られている。

共同キャンペーンのポスター 大型のストリートオルガン

 まず、Gueze "Oud Beersel"を試す。ビールは、カウンターから人数分のグラスにそそがれ、我々のテーブルに運ばれた。酸をはっきり感じる香りで、味わいにも鋭い酸味がある。甘味なんてどこにもない。木樽の香味もあるが、熟成したまろやかさはない。バランスとれていて★★★★(満点)。次に、グーズのベースとなっているLambic "Oud Beersel"を試す。グラスはグーズより少し小さめ。こちらは、アルコール感がほとんどなく、ビールという気がしない。発酵途中の中途半端な味わいである。酸味はなくわずかな甘味、苦味といったものがバランスがまだとれていなく全体に妙な味わいになっている。まだ、若いランビックのようだ。とりあえず★★。もうひとつの本命Krek "Oud Beersel"は、さすがにフルーティな香味を持ち、特徴である鋭い酸味もしっかりしている。フレッシュで味わい満点★★★★。

左からグーズ(5%、75BF)、ファロ(35BF)、 クリーク(6%、80BF) クリーク(左)とグーズ(右)

 隣がビール工場であるので、当然ビールの販売もOKとのことで、山田さんはこの日本では入手不能な貴重なビールを購入し、箱に詰めてもらっていた。最初瓶にラベルが貼ってなく、その場で瓶にラベルを貼りながらの箱詰めである。もともとランビックビールにはラベルを貼るというという習慣がなく、中身を表すのに石灰塗料を塗り、白ならグーズ、赤ならクリークを表示していた。銘柄はその醸造所で買った銘柄に決まっている。日本でも戦前の地酒には、銘柄名などなかったのと似ている。EUの規定で、必ず表示する義務が生じたことからしかたなくラベルを作ったという。海外に輸出するには、当然その中身を表示しなければならないので、ラベルはその点でも必要かもしれないが、このOUD BEERSELは輸出することなんて、少しも考えていないのではないか。山田さんが「みなさんにもラベルをもらってあげましょう。」といってラベルを所望すると、グーズのラベルは貼った分でおしまいで、クリークのラベルしか残っていないとのことだった。ラベルもほんの少ししか用意していない醸造所なのである。生産量は年間500hlという小さな醸造所であった。

【データ】 醸造所 Henri Vanderverden(Laarhedestraat 230,1650 Beersel)
カフェ Oud Beersel(Laarhedestraat 232,1650 Beersel)
Tel:02.380.3396 火曜休 10:00-20:00

(つづく)


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