ヒューガルデン「禁断の果実」のアダムとイブの原画
ルーベンスの「アダムとイブ」の絵を模したラベルで有名なVerboden Vrucht(ヴェルボーデン・ウルヒト)/Fruit Defendu(禁断の果実)というビールがあります。このビールのラベルは、ルーベンスの絵をパロディ化し、アダムとイブの手にビールグラスを持たせたデザインです。その原画は、ヒューガルデン醸造所の親会社のインターブルー社のホームページで見ることが出来ます。
 この3つを比べてみましょう。よく見ると、ビールラベルは、確かにグラスを持った手はルーベンスを改竄した原画どおりですが、イブの左手が寄りかかる木の裏側に回っているところは原画に従わず、ルーベンスのオリジナルと同じ構図になっています。アダムが寄りかかる木の具合とか細部を比較すると、グラスを持った手以外は、ルーベンスのオリジナルに近いことがわかります。つまり、3つとも異なるデザインとなっているのです。
ビールのラベル (Verboden Vrucht 8.8%)
ルーベンス作「アダムとエヴァ」
アントワープ/ルーベンスの家所蔵
ビールラベルの原画
さらに、ビアマットも見てみましょう。なんとビールラベルと同じものと、ラベルの原画を使用したもとの2種類あるから不思議です。また、ビールグラスでは、ビールラベルをもとにデザインされています。
ビア・マットA
※ビールのラベルと同じ絵
ビアマットB
※ビールラベルの原画と同じ絵
※参考:ビールグラスの絵
さて、このビールについて、有名な話をマイケル・ジャクソンの「地ビールの世界」(田村功氏訳)から引用してみましょう。
「ヴェルボーデン・ウルヒト」こと「禁断の果実」のラベルデザインは、ルーベンスが描いた『アダムとイブ』を下絵にしています。このビールが初めてアメリカに輸出されたとき、『アルコール・タバコ・銃器取締局』(ちょっと変わった組み合わせです)は、「禁断の果実」のラベルをワイセツと判断し、輸入の許可をしませんでした。困った輸入業者は、こう言って講義しました。「この絵を何だと思っているんですか?ルーベンスですよ。フランダースが世界に残した偉大な芸術作品を、あなたワイセツだって言うんですか?」。役人は、そこでこう答えました。「アダムは、ほんとうにビールのグラスで、イブを誘惑したんですか?私は確かリンゴだったと思いますがね!」

 ※マイケル・ジャクソンの「地ビールの世界」(田村功氏訳)P137〜138
この文章が大変面白くて、ルーベンスの元絵には、アダムはリンゴを持っているものとばかり思っていました。しかし、よく見るとルーベンスの絵では、アダムはリンゴを持っていません。アダムがたしなめるのを聞かず、イブはリンゴを今まさにかじうとしている瞬間をとらえた場面でした。

ところで、アメリカの『アルコール・タバコ・銃器取締局』は、その後も話題を提供してくれています。
 フランス・ボルドーの毎年ラベルデザインが変わることで有名なCh.ムートン・ロートシルトは、1993年ヴィンテージのラベルにスイス在住の画家バルティスBalthusの少女のヌード像を選びました。このワインがアメリカでは、そのデザインが幼児虐待であるとして『アルコール・タバコ・銃器取締局』の権限で輸入できなくなりました。Ch.ムートン側も、芸術作品であることを理由(これは本当の芸術作品!)にアメリカへの輸出ができるよう声明を出したりしましたが、その措置は解除されませんでした。
 そこで、Ch.ムートン側は、この年に限ってアメリカ輸出用の別ラベルを用意しました。そのラベルは、『アルコール・タバコ・銃器取締局』の無理解を皮肉ったのか、本来絵が描かれている部分が無地になっています。

Ch.ムートン・ロートシルト1993
※バルティスの絵
Ch.ムートン・ロートシルト1993
※アメリカ輸出用の無地ラベル

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