第6回ベルギー王国ビール探訪記(6)

3日目(2)
3.Brouwerij Rodenbach NV (ローデンバッハ醸造所)
4.ビアショップ Streekbieren Yves

 Brouwerij Rodenbach NV ローデンバッハ醸造所

 ルースラーレRoeselareの町の中心部に入り、ローデンバッハ醸造所はどこだ?どこだ?と探しているうちになんとなく着いてしまった。ローデンバッハ醸造所は、ベルギーでは中規模な醸造所であるが、外観は比較的大きなものであり、レンガの外壁は薄汚れていて、歴史ある醸造所の風格も感じられた。
 醸造所に入ると、まず来客用のホールに案内された。ホールは新しいもので、1986年にパルムに買収されてから建設されたものであろう。大手パルムによる醸造所の改装や新築の気配が醸造所内のあちらこちらに感じられる。
 さて、ホールではコーヒーをいただきながら、ビデオを見る。2001年制作のもので、言葉はオランダ語だが、英語の字幕が付いている(というより英語字幕版をお願いした)。ローデンバッハ醸造所の歴史が歴代の当主ごとにかなり詳しく説明された内容である。ローデンバッハ家がドイツから移住してきたことや1836年に醸造所を買収したのが現在のローデンバッハ醸造所の起源という話など。詩人の当主がいたことなども覚えておくと、あとで醸造所内にある銅像が誰の銅像なのかよくわかる。 
 注目すべきことは、オランダ語による醸造所名の発音であるが、「ローデンバック」と発音していた。もともとがドイツ系の家系なのでドイツ的な「ローデンバッハ」であったのだろうが、パルムが買収しローデンバッハ家と関係がなくなったので、一般的な発音である「ローデンバック」になったのであろう。なお、人名の発音では例えば「フィレデリック・ローデンバッハ」と発音していた。
1820年 アレキサンダー・ローデンバッハは11歳の時に盲目となったが、ビール醸造所を創設する事をあきらめず、兄弟たちと一緒に醸造を開始した。
1836年 9月20日、彼の妻と一緒にぺドロ・ローデンバッハはルースラーレにある醸造所を買収する。(この日が1986年の創設150周年としての基盤となっている)
1870年 ユージン・ローデンバッハが醸造所を経営。彼は英国へ渡りオーク樽でビールを熟成させ最後にブレンドする技術を学ぶ。ゆえに、ユージン・ローデンバッハが今日の伝統的ローデンバッハビールの始祖。
1902年 エドワード・ローデンバッハが死去した後、妻と三人の娘たちが醸造所を引き継ぐ。
1986年 ローデンバッハ醸造所、創設150周年記念を祝う。
 ビデオが終わりホールを出ると、1986年まで、つまりパルムに買収されるまでの150年間、麦芽を造っていた製麦所へ案内された。建物は丸い円筒形で、その内部の壁には製麦の工程が順を追って解るようにパネルが展示してあった。円柱の中心は製麦釜となっている。
 次に案内されたのは、発酵タンクのある建物である。このタンクも実際には使用されておらず、タンクの断面などがガラス越しに見えるようになっている。発酵中の様子などもパネル展示である。
 酵母については非常に詳しく解説されており、ローデンバッハがいかに特殊なビールなのかを示していた。一般にビールの発酵方法は3種類と分類されているが、ベルギーでは4タイプあるという。1.上面発酵は上面発酵酵母だけを用いる、2.下面発酵は下面発酵酵母だけを用いる、3.自然発酵は、野生酵母と上面発酵酵母それにバクテリアによる、そしてローデンバッハの発酵方法は、4番目のMixed Fermentation(混合発酵)というもので、上面発酵酵母とバクテリアによる発酵で1100年からの伝統ある醸造方法なのだそうである。
 なお、現在の醸造は、2002年1月にできたガラス張りの新しい醸造棟で行われている。設備はMEURA社のもの。
 いよいよ樽がある倉庫に案内された。樽は294樽あり、150年以上前、すなわち創業時の樽も残っている。樽は大きなもので65,000リットル、小さなものでも12,000リットルという巨大なもの。それが倉庫内に立ち並んでいる様は驚嘆する。「そうなんだ、この樽の景色が見たくてベルギーまで来たんだ」と実感する。立ち並ぶビール樽の林の中を樽番号を確認しながら歩くと、確かに294番の樽が見つかった。
 ビールは樽で約2年間の熟成を重ねるが、その後、あるものは遠心分離機でろ過され、若いビール(5〜6週間ステンレスタンクで熟成のもの、遠心分離機でろ過)とブレンドされローデンバッハ・レギュラーになる。ブレンド率は若いビールが75%、樽熟ビールが25%。また残りは、これも遠心分離機でろ過されて、ローデンバッハ・グラン・クリュになる。なお、生産割合は、75%がレギュラーで、25%がグラン・クリュ。
 これだけの樽があるとその維持も大変であるが、醸造所内に樽工場があり、専門の樽職人が樽を製作したり、樽のメンテナンスを行っている。以前、パルムに買収されたおり、ローデンバッハ・アレキサンダーが製造中止になったが、その理由は、同傘下のボーン醸造所のボーン・クリークがアレキサンダーと競合するので1本化するという合理化目的のため。その際、グラン・クリュも同様に製造中止との話しがあったが、愛飲家からの強い反対にあって醸造を続けているのが実態。これだけ樽の維持管理が大変ならやめちゃおうというのもよくわかるが、やはり伝統あるビールが消えてしまうのは惜しい。ローデンバッハの味わいを特徴づけている長期樽熟成は是非とも続けていただきたいものである。

Rodenbach レギュラー樽生

Rodenbach Grand Cru
(6% 33cl)
 樽熟成庫内を一巡し、倉庫の入り口に戻ってきた。ここはレセプションホールになっていて、ローデンバッハ家歴代の顔写真が飾られている。テーブルが用意されており、ビールを試飲したり、お土産のグッズもいろいろ購入することができる。
 ここで、ローデンバッハ樽生をいただく。フレッシュだが、酸味はおとなしい。弱い感じ★★☆。つぎに、ローデンバッハ・グラン・クリュをいただく。これは酸味と味わいのバランスが素晴らしい。日本では状態のよいグラン・クリュを飲んでいなかったためこの味わいの素晴らしさに初めて感動した★★★★+。このままの味わいで日本で飲めるなら、本当に推奨に値するビールである。ホールは樽に囲まれ、ここで1杯飲むといい雰囲気である。
【データ】 Brouwerij Rodenbach NV Spanjestraat 133 - 141 B-8800 Roeselare
Tel:+32 (0)51/27.28.10 FAX:+32 (0)51/22.92.48
http://www.rodenbach.be/

 ビアショップ Streekbieren Yves

 ローデンバッハ醸造所を出たのはもう夕方の5時。このあとの予定は同じルースラーレの町にあるビアショップ、イヴYvesである。Tim Webbの本にも出ている店で相当な種類、それも700種類というとんでもない数のビールがあるという。
 この日まで、まだホテルの部屋で飲むためのビールを購入していない。ビールを買いたいという欲求が皆たまってきていた。ここでビールを購入しておけば、この先の日程も安心である。
 店はルースラーレのVrouwenmarkt広場に面する場所にある。車を広場に停めたとき店の方を見ると、シャッターを下ろし、中に入っていく人影が見えた。車を降りて店の前まで歩いてくると、店は閉店していた。ついさっき店を閉めたばかりだと思い、扉をたたくが人は出てこない。ヤンさんが店の電話番号に携帯電話をかけるが誰も出てこない。「え〜。そんな。」と皆の口から、驚きと悔しさの声が出る。ショーウインドウから店内を覗くと、確かにビールが数多く並んでいるのが見える。珍品のDeusデウスもあるではないか。ここまで来てなんで買えないのか。
 時間はまだ5時を過ぎたばかり。本によると6時30分までは営業しているはずなのに。
 しばらく、店の前で待つが何も起こらない。悔しいが仕方なく諦めて、ブリュッセルに戻った。
【データ】 Streekbieren Yves Onze-Lieve-Vrouwenmarkt 1, Roeselare
Tel:+32 (0)51 22 21 88
月〜土 9:30-18:30


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