第6回ベルギー王国ビール探訪記(3)

2日目(1)
1.Au Laboureur(オー・ラブロー)
2.Brouwerij Kerkom ケルコム醸造所
3.昼食

 Au Laboureur オー・ラブロー


Au Laboureur
 ベルギー2日目は、日曜日。ミディ(ブリュッセル南駅)の朝市がある。毎回この朝市を訪れているので、今回は朝市見学は控え、朝市の広場に面したカフェ、Au Laboureur オー・ラブローに直行する。
 このカフェは以前は無名のカフェであったが、最近のTim Webbの著書にも取り上げられるようにもなった。ミディの朝市見学の際のトイレ代わりに利用するには、丁度よい立地である。そのためかどうか、このカフェのトイレにはトイレおばさんがいて、チップが必要である。

このカフェのメニューには取り立てて珍しいビールはないのであるが、なんと言ってもランビックビールの新鮮な樽生が飲めることが嬉しい。
メニューの樽生にあるLambicはグラスのほか、1/2リットル、1リットルから選ぶことができる。1/2リットルと1リットルは昔ながらの陶器のピッチャーで出てくるので雰囲気十分。中身はTimmermansのもの。甘味を付けているタイプのグーズであるが、なんともフレッシュで何杯でもお代りができそうである★★★☆。


Biere au Fut Lambic 1/2 l

Mort Subit Gueuze Lambic (7% 37.5cl)
 つぎに注文したのは、Gueuze Artisanale(Bouchon)とメニューにあるビール。思ったとおりMort Subitの甘味を付けていないレア物グーズが出てきた。無ろ過で7%のアルコール度数がある。グレープフルーツの風味が感じられ、堂々とした本物のランビックの味わいがある。★★★★。賞味期限は2004年12月とあり、できたてのビールではなく、カフェで何年か熟成されたものである。ラベルのデザインは昔のMort Subitのものであるが、このグーズの黒ラベルだけは最新のものでもいまだにデザインの変更がされないまま使用されている。
 なお、あんまり美味しかったので、2本ほど購入した。1本3ユーロだと思うと安い買い物である。
【データ】 Au Laboureur 3 Place De La Constitution/Grondwetpaats Brussels (Anderlecht), 1070
Tel:+32 (0)25 20 18 59
 この日の出発時間までまでちょっと間があったので、私は皆と別れ、街を散策しながらホテルに戻った。

ショーウインドウに飾られたビール

Cafe Metropole
 みやげ屋さんのショーウインドウを見ていたら、マグナム(1.5リットル)やジェロボアム(3リットル)といった巨大ボトルが並んでいた。シメイ・トリプル・マグナムは日本未輸入のもの。コルセンドンクの大型の瓶も興味あるが、こんな大きな瓶を持ち帰ることはちょっとできないので、撮影のみ。なお、ボトルの容量による呼び名であるが、3リットル瓶はボルドーワインではダブル・マグナムと呼んでいる。ベルギービールの巨大ボトルはシャンパンの瓶と同型なので、シャンパーニュ風に呼んでいる。
ボトルの呼び名
容量 シャンパーニュ/ブルゴーニュ ボルドー
375ml ドゥミ Demi ドゥミ(ハーフ)
750ml ブティーユ Bouteille ブティーユ
1,500ml マグナム Magnum マグナム
3,000ml ジェロボアム Jeroboam ダブルマグナム Double Magnum
4,500ml レオボアム Rehoboam ジェロボーム
6,000ml マチュザレム Mathusalem アンペリアル Imperial
9,000ml サルマナザール Salmanazar -
12リットル バルタザール Barthazar -
15リットル ナビュコドノゾール
Nebuchadnezzar(ネブカドネザル)
Nabucodonozor 
Nabucodonosor
Nabuchodonosor
-

 出発

 さて、今回のマイクロバスの運転手は山田さんではなく、日本語が達者なベルギー人でフランドル地方出のヤンさん。日本人向けのツアーコンダクターを目指すということで、その本格的な初仕事前に我々と同行するとになった。今までワロン地方ののフランス語については山田さんも堪能なので苦労せずに旅行できたが、フランドル地方のオランダ語圏では結構手を焼いていた。今回オランダ語圏でも不自由なく旅行できたのはヤンさんのお陰である。
 ホテルのロビーに新しく集合したのはヤンさんだけではない。もう一人、駐ベルギー公使の門司さんである。門司さんは日本酒を海外にも広めようと活動している日本酒輸出協会の役員もされているが、月刊「東京人」1995年3月号のベルギービール関連の記事ににおいて、ベルギービールのラベルコレクターとして登場し、ブラッセルズ神田店のカウンターでベルギービールを味わっている姿が掲載されているほど、ベルギービール通の方でもある。ちなみにカウンターの中にいる人物は滝沢店長である。
 こうしたメンバーを加え、マイクロバスはホテルを出発した。

車内

月刊「東京人」1995年3月号から

 Brouwerij Kerkom ケルコム醸造所

 Tim Webbの本を見ていると、ビールに対する評価が非常に高い醸造所がいくつかある。このケルコム醸造所もそうした醸造所の一つであり、今回の訪問を楽しみにしていた。
 ブリュッセルから東に約70Km。近くの町はSint Truidenシント・トルィデン。シント・トルィデンを中心とするこの地域はベルギー有数の果物地帯で、洋ナシ、サクランボ、リンゴの産地である。
 車で醸造所に向かう途中でも果樹園と思える風景がずぅ〜と続き、こんな場所に本当に醸造所があるのかと疑いたくなる。畑の中の広い一本道を進んでいくうちにちょっと家々が目立ち始めたなと思ったところで、醸造所に到着した。
 案内されて建物の中庭に入るが、そこで見たものは屋根の稜線が波打つ様にゆがんだ建物である。ヨーロッパの田舎の農家という雰囲気で、1878年創業当時のままの建物らしい。早速見学をさせていただく。
 醸造所は1968年に一旦閉鎖されたが、1988年に醸造を再開した。現在の設備はその再開時にイギリスから調達したという醸造設備を使用している。 1999年から現在のブルワーであるMarc Limetマルク・リメさんに引き継がれている。
 ビールの種類は以前はBINKという銘柄1種類のみであったが、Marc Limetさんが引き継いでからはその種類を増やしているが、年間生産量は340ヘクトリットルというとても小さな醸造所である。

麦芽破砕機

ブルワーのMarc Limetマルク・リメさん
 ビールは毎月醸造しているが、我々が訪れた1月は寒すぎるため、上面発酵酵母が活動しないという理由で醸造をやめているということである。確かに上面発酵とは、15〜25℃と比較的高い温度で短時間のうちに発酵させるのだが、この日はとても寒い日であった。
 寒い上に、醸造所のゆがんだ瓦葺きの屋根を建物の中から見上げると、明るい光が漏れている。ランビックの醸造所のように隙間があるのである。道理で建物の中もとても寒い。しかし、この隙間から風が入ってビールを冷やすのに都合がよいということである。
 醸造所とは別棟には醸造所経営のビア・カフェがある。室内はストーブで暖房されていて暖かい。建物が古い分、ビアカフェの雰囲気もアンティーク調である。古い陶器のビアマグやグラス、アンティーク道具や変わった形のグラスなど飾られていた。メニューにはビールだけでなく料理も掲載されていたが、この日は料理は出来ないという。お昼時でちょっとお腹が空いていたのだが、ビールで我慢。カフェのカウンターにはビアサーバーがあるが、閑散とした時期であるのでビー樽は繋いでいないのであろう。Marc Limetさんは、グラスを並べると、ラベルの貼っていないボトルを取り出してグラスにそそぎ出す。

Bink Blond(5.5% 33cl)
Bink Bruin(5.5% 33cl)

Bink Bloesem
(7.1% 33cl)

Adelardus Trudabdijbier
Bruin
(7% 33cl)

Winterkoninkske
(8.3% 33cl)
 最初にそがれたビールはこの醸造所の主要銘柄であるBINKビンクで、そのBink Blond。モルトや酵母の味わいがしっかりしたタイプでもちろん無ろ過で濁っている。★★★★。銘柄のBINKとはこの町の人たちを指す言葉だそうで、意味は、「たくましい」ということなのだろうか。次のビールはBINK Bruin。これもコクがあるビールで★★★☆。3本目はBINK Bloesemで、桜の花のような絵にミツバチが描かれているが、花はこの地方特産の洋ナシの花で、ミツバチは洋ナシを抱えている。ハチミツ入りのハニービールである。なんか香りにクセがある。ブレタノマイオス系の酵母の香味を感じてしまうのは、天井の隙間を見たせいか。★★☆。
 4本目は、Winterkoninkske。Winterkoninkskeとはラベルに描かれた小鳥の名前。アルコール度数が8.3%あるウインタービールである。はっきりとしたオレンジピールを感じ、ほかにも不明のスパイス味。コクもあるがなめらかな喉越し。7種類のモルトを使用しているということで、そのうち1つがオートミール。いかにも納得。★★★★+。
 最後はAdelardus Trudabdijbier Bruin。近くにある大きな町であるSint Truidenシント・トルィデンの大修道院にちなんだビールである。この修道院は現在は廃墟となっていて、修道院聖堂の塔が残っている。ラベルにもその塔が描かれている。Sint Truidenシント・トルィデンの町は、Sint Truidenシント・トルィデン(仏名Saint Trondサン・トロン)という聖人が7世紀にここに修道院を設立したことから発展した町である。最盛期には全長100mの身廊を持つ聖堂があり、西正面には巨大な塔が建っていたという。なお、ベルギーの世界遺産に1998年登録されたフランダース州の13のベギン会修道院Flemish Beguinagesのうち、1つがSint-Truidenシント・トルィデンにある(Beguinage de Sint-Truiden)が、廃墟の大修道院とは別。 Adelardusは、修道院長の名。麦芽の甘味を残した感じでコクがある。苦味も有り、スパイシーだが特にジンジャーを感じる。泡立ちもよい。★★★★。このビールはbruinだったが、他に飲んでいないビールにAdelardus Trudabdijbier Tripel(9%)がある。

Marc Limet マルク・リメさんと記念写真

Michel Volckaerts ミッシェル・ヴォルカールさん
 ちょうどこの醸造所にいた方で、ブルワーのMarc Limetマルク・リメさんと一緒に醸造所の説明に回っていただいた方がいた。お名前はMichel Volckaerts ミッシェル・ヴォルカールさんで、仕事はビールのプロデューサー。プロデュースといってもビールのレシピだけでなく、ビール名やラベルもデザインするようである。彼がプロデュースしたビールで有名なものは、スターケンズ醸造所のセント・セバスチャンなのだそうだ。意外と大物のプロデューサー?。ちょうど新しくプロデュースするビールの話になったが、ビールの名前はSante Maryということで、すでにラベルのデザインも出来上がっていた。あとは、どこの醸造所に作って貰うかという段階なのだそうである。
 こうしたビールのプロデューサーはベルギーには多いようで、一番有名なの人はご存知ヒューガルデン・ホワイトを醸造したピエール・セリスさんである。アメリカ・テキサスから帰国後、1998年にDe Smedt醸造所からGrottenbierグロッテンビールを発売したが、現在の醸造元は、St.Bernardous醸造所に変わっている。こうしたプロデューサー開発のビールは醸造所オリジナルのものではないので、いつのまにか別の醸造所で醸造されていることがある。また、醸造所が潰れても、別の醸造所が潰れた醸造所の銘柄を引き継ぐことが、ごく普通に行われている。
 さて、ビールは5種類いただいたが、食事をとることが出来なかったので、我々は醸造所を後にして再びブリュッセル市内に戻ることにした。
【データ】 Brouwerij Kerkom Naamsesteenweg 469, Kerkom-Sint Truiden, 3800
Tel:+32 (0)11 68 20 87
http://www.brouwerijkerkom.be/

 昼食

 車での移動であるが、さすが駐ベルギー公使の門司さん。ブリュッセル市内についてはめちゃくちゃ詳しいので、日本から訪ねてきた我々をもてなそうと、車窓から見える建物、風景についていろいろ説明をしてくれる。EUの情勢なども含め様々の解説付きの観光ツアーのようで感謝!感謝! 
 お昼の食事処を探すが、日曜日ということもあり、営業している店が見つからない。La Danse des Paysansは、もとModer Lambicの支店があった場所にあるレストラン。しかし、定休日のようである。

EU本部

La Danse des Paysans
 街自体が日曜日とあって人気がなく、目ぼしいレストランも見つからなかったので、とりあえず近くて営業している店ということで、ベトナム料理の店に一同入店する。もう午後3時であった。
 ベルギーにも東洋人は多く住んでおり、中華系の華僑のチャイニーズレストランはよく見かける。ベトナム系のベトナム料理店もあってもそんなに不思議ではない。たまには、ヨーロッパの人種の坩堝を体験するのもいいだろう。

ベトナム料理店Génération

ベトナム風焼きそば
 さて、メニューを見ると、ビールはジュピラーの樽生とチンタオビールの2種類しかない。当然ながら全員ジュピラーを注文する。ほとんど水代わりであるが、ベトナム料理に合わせるビールはやはりピルスナーなのだろうか★★。
 料理も特段どうしても食べたいというものがなく、とりあえず私は焼きソバを選んでみたが、他にはビーフンを食べる者など。

Jupiler
 楽しく長い時間を過ごす感じの店ではなかったので、食事が済むとさっさと会計をして店を出た。しかし、逆に夕飯までの中途半端な時間をどうしましょうという感じであったが、門司さんの提案により、ブリュッセル近郊のドライブということになった。
 郊外のカンブルの森をドライブして時間調整。日曜日ということもあって、人出が多い。車道も通行止めや一方通行などで同じ場所をくるくる回る。ブナ林で夏は緑豊かなのであろうが、冬のこの時期では夏を想像するだけ。なんとなく時間が過ぎたので、いよいよレストランDE RARE VOS(ドゥ・ラール・ボス)へ向かう。
【データ】 La Danse des Paysans Chaussée de Boondael 441, 1050 Elsene
Tel:02 649.85.05
Restaurant Vietnamien Génération Chaussée de Boondael 328, 1050 Elsene
Tel:02 646.12.83

初日(2) 2日目(2)

ベルギービールの魅力
酒蔵奉行所関連

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