第6回ベルギー王国ビール探訪記(15)

7日目(1)
1. Brasserie Cantillon (カンティヨン醸造所)
2. Beersel (ベールセルの町)

 Brasserie Cantillon (カンティヨン醸造所)


Brasserie Cantillon(2003.1)

(2001.1)
 早朝、ホテルを出発しカンティヨン醸造所に向かう。
 前回(2001.1)訪れた時には外壁に、醸造所名"Brasserie Cantillon"とだけ描かれていたのが、今回は"Brussels Museum van de Geueze”(ブリュッセル・グーズ博物館)との名称も入り口上部に追加されて描かれていた。前回はまだ塗装工事中だったということらしい。他にもなにかと工事中であった。
 カンティヨン醸造所には、今回で4度目の訪問(過去3回1995.122000.12001.1)である。手を入れた場所は外装ばかりでなく、2階の樽貯蔵庫のフロアーの床を剥いで工事していた場所は、80人が座れる(立食だと110人まで)イベントスペースとなっていた。その他にもいろいろと細かい補修工事が施されていた。いままでは積極的に見せようという姿勢は感じられなかったのだが、今回は照明も完備してグーズ博物館としての機能が整備されたようである。
 ランビック醸造という世界でも稀なビール醸造技術を後世まで伝えていくために、醸造所創立の1900年から100年、2000年に丁度100年を迎えたことを機にリフォームを施した。博物館として整備し、レセプション会場も用意して、ランビックのPRに務めていこうとする姿勢が感じられる。
 ただ、100年を経た醸造所がさらに将来に渡って醸造を続けられるように建物全体を補強、リフォームする必要があったにしても、これは一つ間違えるとランビックの醸造に影響を与えかねない大冒険である。醸造所内の生態系もランビック醸造には大事とばかり、「蜘蛛の巣一つ取らない」というのが、醸造所のヴァン・ロワさんの口癖であった。

イベントスペース 兼 レストラン

照明もついた明るい倉庫
 さて、入場料を支払い、相変わらず資料を見ながら、勝手に醸造所内を見学してまわる方式は、従来どおり。醸造方法、醸造設備の紹介は、以前の訪問記において紹介してあるので、ここでは省略する。
今回の訪問で、大いに気になった点は、屋根瓦の張替えである。
ランビックを製造するのにもっとも味的に影響しそうな工程は、ウォート(麦汁)を一晩屋根裏のプールで冷却するという工程で、このときに降り注ぐ野生酵母の具合で、その後の発酵が決まってしまう。このあとビールが空気に触れることはあまりない。
酵母の降り注ぎ方は、屋根瓦の隙間の具合で変化しそうである。今回、まず驚いたのたは、天井の瓦の張替えであるが、穀物倉庫のそれは、完全に新しくなっていた。これに皆が驚いたのである。しかし、冷却槽のある屋根裏の瓦はどうであろう。2年前の2001年に訪れた時と、写真を比べてみると、全く変わっていないことがわかる。この部分に手が加わっていないことがわかり、とりあえず安心である。
 カンティヨン醸造所のビールの味が変わった、キレイになったという評判が立っているが、その原因を屋根瓦の張替えに求める向きもあるが、私は、年ごとのブレンドの違い、また、輸入ロットの違いがその理由と考えている。

穀物倉庫の天井(2003.1)

穀物倉庫には天窓もある。

冷却槽の屋根(2001.1)

冷却槽の屋根(2003.1)
さて、カンティヨン醸造所が密かに進めていた改革にはもう一つ、ビールのオーガニック化がある。もともとカンティヨン醸造所は以前から有機栽培の原材料を使用していると言っていたが、今回聞いたとき、いよいよ2003年からは有機バイオ表示のものを売り出すと言っていた。(実際2003年に輸入されたグーズにはバイオマークとケシの花が描かれている。)
これは、オーガニックの表示をするには、オーガニックの認証団体が認証した原料を使用しなければならないのであるが、認証を得るまで時間がかかったり、費用もかかったりと、認証を得るための困難を回避する生産者も多く、カンティヨン醸造所はそうした未認証のオーガニック原料をいままで使用してきた。3年前からは認証を受けたオーガニック原料を使用し始めたが、グーズは、1年〜3年物のランビックをブレンドするため、100%オーガニックと表示できるようになるまで、3年の月日を要し、2003年の出荷分から晴れてオーガニックの表示をすることが出来るようになったということである。なお、ラベルにはオーガニックの象徴であるケシの花が描かれた。
 オーガニックの認証機関はベルギーにある2つあるが、1つはEcocert Belgium sprl/bvbaが認証(“CONTROLE ECOCERT-BE-1”の文字)、もう1つはBIOFORUMという団体が認証(認証マークあり)している。
CONTROLE ECOCERT-BE-1 Ecocert Belgium sprl/bvba
Avenue de l'Escrime/Schermlaan 85, B-1150 Bruxelles/Brussel
TEl: (32) 81 60 03 77 Fax: (32) 81 60 03 13
http://www.ecocert.be/
CONTROLE ECOCERT-BE-2 BLIK vzw/asbl
Statiestraat 164 B, B-2600 Berchem
Tel: (32-3) 287 37 50 Fax: (32-3) 287 37 51

Bio Garantie
BIOFORUM asbl
Hugo Baert
Leuvensebaan 368, 3040 Sint-Agatha-Rode
tel. 016/47.01.98 fax 016/47.01.99
info@probila-unitrab.be
BIOFORUM Chambre Wallonne
Daniel Jamar
Rue des Fosses Fleuris 39, 5000 Namur
tel + fax 081/83 58 00
http://www.bioforum.be/
 穀物倉庫に置かれてあるモルトやホップの袋を見ても、まさしくオーガニック原料であることが確認できた。

モルトの袋には
CONTROLE ECOCERT-BE-1とある

袋の左上にマークが貼ってある。

カンティヨン使用のホップ
ハラタウHersbrucker2000年
※マジックでBIO Pureの文字

Tarwe(小麦の袋)
マーク。Controle Blikの文字。
今回、お父さんのジャン・ピエール・ヴァン・ロワ(Jean-Pierre Van Roy)さんはいなかったが、息子さんジャン・ヴァン・ロワ(Jean Van Roy、こちらもジャンでややこしい)さんが、忙しく働いていた。現在、息子のジャンさんが代を引き継ぎ社長になっている。
 ちょうどビールの出荷のためにトラックが到着し、梱包されたビールの箱を運搬し、トラックに積み込むところに立ち会った。このビールは、日本への輸出用なのだという。
  一通り見学が終了したので、ビールを味わうことにした。 味わったビールは、グーズ、クリーク、ロゼ・ド・ガンブリヌスの3種類で、いずれも大瓶を専用の抜栓機で栓を開け、サービスしてくれた。Gueuzeグーズは、まだ若い新しい感じ。ランビックとしての風味が残っていて、バター茶の味わい★★★☆。Kriekクリークは、カンティヨンの特徴である鋭い酸味が良く出ている★★★☆。Rese de Gambrinusロゼ・ド・ガンブリヌスは、フランボワーズ(木苺)のみではなく、クリークも入っている。比率は3:1。クリークよりも薄い色であるのが、フランボワーズの特徴。やや刺激的な臭さを感じる熟成味。★★★★。

Rese de Gambrinus,Kriek,Gueuze
カンティヨン醸造所では、ビールやビールグッズもいろいろ販売しており、見ていて欲しくなるものが多数ある。イリスのグラスもその一つ。ビールも日本に輸入されているいるヴィンテージと異なるものがあったりして、例えばル・ペペの2000年物など購入欲gがそそられたのを我慢して、カンティヨン醸造所をあとにした。

【データ】 Brouwerij Cantillon 56 rue Gheude, 1070 Brussels
Tel: +32 2 521.49.28 Fax: +32 2 520.28.91
月〜金: 8.30〜17:00
土:10:00〜17:00
日休
http://www.cantillon.be/

 Beersel (ベールセルの町)

 ブリュッセルを抜ける途中で、運河の向こうにベルビュー醸造所が見えた。ブリュッセルの都会もランビックの生産地には違いない。だが、ベールセルは、見るからに故郷と呼べそうな場所である。
 ランビックビールは、パヨッテンランドPayottenlandが故郷。パヨッテンランドは、ブリュッセルの南西に位置し、ゼナZunne(仏Senna)川とデンダーDender川に挟まれたブラームス・ブラバンドVlaams-Brabantというローム層の一部で、ゆるやかな傾斜がある。ゼナ谷(De Zennevallei)と表現されることも多い。この土地は古くから農業が盛んな場所で、豊かな穀物とこの土地に根付いている野生酵母によってランビックビールは造られてきた。この土地の庶民の飲み物としてブリューゲルの絵にもビールを飲む農民の姿が描かれている。

ベルビュー醸造所

パヨッテンランドの風景(Beerselから)
 さて、ベールセルを訪れたのは、ドリー・フォンテイネン(3 Fonteinen)が目的。ベールセルの教会前にマイクロバスを止め、教会前の広場に面するドリー・フォンテイネンを訪れた。時間がまだ午前11時前ということもあって、店は準備中で閉まっていた。開店するまで、別のカフェでビールでも飲もうと我々はドリー・ブロネン(3 Bronnen)に向ったが、こちらも営業前なのか入れなかった。カンティヨン醸造所を見学したあと、ドリー・フォンティネンに向かう。このあと2〜3軒のカフェを覗いたが入るにはいたらず、ベールセルの町を皆で散歩した。
 なお、ドリー・フォンテイネン(3 Fonteinen)という言葉は今まで「3つの泉」と翻訳されてきたが、この’Fonteinen’は蘭語辞書によると「噴水」とする方が適切のようである。実際、ドリー・フォンテイネンのオリジナルグラスには3つの噴水の絵が描かれている。逆にドリー・ブロネン(3 Bronnen)の’Bronnen’は「泉」の意味である。誤ったままだとドリー・フォンテイネン(3 Fonteinen)とドリー・ブロネン(3 Bronnen)の意味が逆転してしまう。

ベールセルの中心部

ドリー・ブロネン 3 Bronnen

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