第6回ベルギー王国ビール探訪記(12)

6日目(1)
1.Yerseke イルゼーク
2.Delta Mossel デルタ・モッセル
3.Restaurant Nolet レストラン ノレット
4.フェリー

 Yerseke イルゼーク

オランダ

Zeeland州
  ベルギー料理で有名なムール貝は、実はベルギーの北に隣接するオランダのゼーランドZeeland州イルゼークYersekeから運ばれてくる。オランダが産地なのである。
 そういう訳で、今回のベルギー食材ツアー、本日はムール貝をたっぷり堪能する日。ベルギーを離れてオランダまで出かけてムール貝をとことん研究する1日となる。
 
 朝、ブリュッセルを出発し、アントワープを経て陸路オランダに向かう。ベルギーとオランダは陸続きであまり変化が無さそうだが、ずっと車窓を眺めていると、山田さんが「今国境を越えました」といった声をかけてくれた。路面の良し悪しもあるが、オランダに入ると、土地に起伏がなく、道路が畑よりも盛り土されて路面が高い構造となっている。やはり低地帯に来たことを実感してしまう。
 ゼーランド州は、オランダの世界進出の拠点として繁栄したところ。ニュージーランドの国名はゼーランドから名付けられており、また、オーストラリアのタスマニアなどもゼーランド出身のタスマンが発見して命名したのだという。ゼーランドの人たちと海と貿易のかかわりはオランダでもとりわけ大きい。
 ゼーランドZeelandのゼーZeeは海の意味で海の国を意味しており、名前のとおりすべての土地は海面ぎりぎりの低地で、洲でできた多くの島がデルタ地帯を構成している。イルゼークでも町を囲うようにして堤防と水門が築かれ外洋から守られている。イルゼークは歴史のある町で、町の中心には古い教会があるが、ムール貝とカキの産地として有名になったのは、19世紀後半からである。

イルゼークの教会

インフォメーション&博物館
 

  イルゼークの町に着くと、まず町のインフォメーションを訪れた。このインフォメーションは小さな海洋博物館になっており、イルゼークの町の歴史や産業の紹介、海産物、鳥や生き物といった自然など展示してあった。しばらくここの展示物を拝見して時間をすごす。リーフマン醸造所のビール名・ラベルの絵にもなったヤン・ヴァン・ゲンJan Van Gentという鳥の剥製もあった。Jan Van Gentは学名Sula bassanaで、和名は「シロカツオドリ」、英名Northern GannetでJan Van Gentはオランダ語名。北大西洋、北海からスカンジナビア、カナダにかけて繁殖しているらしい。

店主のJonckheereさん

Jan Van Gent(カツオドリ)の剥製
さて、時間が来たので再度出発。ここで、現地の英語ガイドさんがマイクロバスに同乗する。説明は英語。まず、イルゼーク港に向かう。
ムール貝
ムール貝はオランダ語でMosselen(モッセレン)、フランス語でMoule(ムール)と呼ばれる。学名Mytilus edulis。日本名はムラサキイガイ(紫貽貝)である。ヨーロッパには北方系とその別種又は亜種とされる地中海系(イベリア半島西岸から地中海にかけて分布。学名Mytilus galloprovincialis Lamarckで、和名はチレニアイガイともいう)があり、オランダ産のはもちろん北方系。
 ムール貝は内湾のいたるところに密集、世界中に分布し、黒紫色で光沢がある。殻表は成長脈のほかには彫刻がない。内面は紫色で真珠光沢。メスの身はオレンジ色で、オスは白っぽい色をしている。日本には地中海系のものが、大正から昭和初期に海運の発達によって、船舶に付着して日本に移入された。
 他に日本では、在来種のイガイ(イガイ科、別名せとがい)Mytilus coruscus、東南アジア方面からの移入種のミドリイガイ(イガイ科)Perna viridisがある。
 日本では清浄な海域のものしか食用に向かず、産地は宮城県(石巻その他)、愛知県(三河湾)、岩手県(陸前高田市)、広島県(佐伯郡大野町)、三重県(伊勢志摩)など。輸入物では、アイルランドのBantry Bay産、また、ニュージーランドから輸入されるモエギイガイ又はグリーンマッスル(パーナ貝)Perna canaliculus、韓国産のものなど手に入る。フランスのモンサンミシェル産ムール貝は冷蔵輸入。

ガイドさんが案内

イルゼーク港

ムール貝の選別

機械で大きさを選別

ムール貝の身のチェック

選別されたムール貝の身
 港に着くとまず、ムール貝のセリ市場に向かう。ここでは、水揚げされたムール貝の船ごとのサンプルを鑑定し競り落とす場所である。多数のムール貝仲買人が来ていた。
 我々は、まず、セリが行われる部屋に案内され、席に着く。テーブルには電卓のような装置が備え付けられており、各テーブルで数字を入力すると、正面にある掲示板に入札結果が表示されるようになっているようだ。
 さて、ここでムール貝漁に関するビデオを見た。ムール貝は、稚貝の状態で放流されるが、場所はイルゼークから遠く離れた、オランダの北部にある北海の内海ワデン海Waddenzeeに放される。ここは島が列島状に並び、ちょうど天然の防波堤となっていて、稚貝が沖に流される心配がないという。
 つぎに、水揚げされたムール貝がセリのために選別されていく様子を見学した。バケツに入った船ごとのサンプルのムール貝は、大きさの選別が行われ、貝を開いて身のチェックがされる。そのあとさきほどの別室でセリが行われるのである。

ムール貝の成長の様子

稚貝の養殖場(ワデン海)の地図

 Delta Mossel デルタ・モッセル

 次に訪れたのは、ムール貝の加工工場である。海岸沿いには、何軒ものムール貝業者の工場が立ち並んでいて、我々はDellta Mosselデルタ・モッセルという会社を見学した。
 工場に岸壁に横付けされたムール漁船から水揚げされたムール貝は、大きな水槽に移され、海水をかけられ砂を吐くのを待つ。
 その後、機械で表面が洗われ、殻に着いたフジツボや海草が取り除かれる。そして、ベルトコンベアーに乗って、人間の目で1つ1つ、きちんとフジツボなどが落ちているか、貝が割れていないどうかを確認し、合格しないムール貝は取り除かれる。不合格のムール貝もかなりある。ここでムール貝を試食させていただいたが、海の香りがして新鮮で美味しかった。
 合格したムール貝は、キロ単位に袋詰めされ、商品として出荷されていく。
 なお、工場内はムール貝を新鮮に保つために室内は低温で、かつ、いたるところで水を使用しているため、非常に寒い状態であった。見学前に、カメラが水で濡れるので、工場内には持ち込まない方がよいとアドバイスを受けたのも納得である。

※パンフレットの写真から引用

※パンフレットの写真から引用
 ムール貝の工場の次に訪れたのは、Dellta Mosselデルタ・モッセルと同じブランドのDellta Ostreaというカキの養殖場である。
 こちらは、工場という感じではなく、担当者がたった一人いるだけで、カキを選別し、木の籠に詰めていた。カキは建物の前の養殖池で養殖されている。
 養殖されているカキの種類は日本のマガキと同じクルーズcreuseと呼ばれる種。1つ試食させていただいたが、これも新鮮で美味しい物であった。
牡蠣(カキ)
 ヨーロッパではカキには2種類ある。かって、デンマークからポルトガルあたりまでの海一帯を占めていたという、殻が円い形の「ブロンbelon(又はプラットplate)」種が一つ。現在、ブロン種は、フランスのブルターニュ地方、最西端の街ブレストやカンカルといった漁港近辺でとれるのみ。
 そして、もう1種類は「クルーズcreuse」と呼ばれるカキで、ブロン種が病気で絶滅に瀕したとき、1947年にポルトガル種を移植したが、1967年に2種類の病気で全滅寸前のところ、成長が早い日本種を1970年に仙台から2000トンを空輸し瞬く間に広がったもの。
 ブロンは病気に弱く養殖も難しいため、生産量はクルーズの方がはるかに多い。
 養殖場の見学が終わり、再びマイクロバスに乗ってインフォメーションに戻る。ガイドの方が下車した後、このムール貝の産地イルゼークの町で美味しいムール貝料理を食べるため、レストランに向かった。
【データ】 Delta Mossel Korringaweg Postbus 100 4400 AC Yerseke,Holland
Tel: 01113 573330
http://www.deltamossel.com/

 Restaurant Nolet レストラン ノレット

 ムール貝の料理は、一般にベルギー料理と認識されているが、オランダでもベルギー同様にムール貝は食べられていて、オランダの代表的郷土料理の一つである。
 ゼーランド州はムール貝の本場とあって、シーフード料理の専門店が集まっている。我々が行った店はイルゼークのノレットNoletというレストランで、この店は1910年創業というカキ、ムール貝、オマール海老などシーフード料理の老舗である。
 さて、はじめに出てきた料理は海タニシ。ちょっと胡椒が利いていて塩味が強い味付けである。これをまち針を刺し、うまく身が出るように回転させる。上手に回転させないと身が途中で切れてしまう。
 次に生ムール貝。マスタードの入った辛子マヨネーズを付けて食べてもよいし、レモンを絞って食べてもよい。ここで食べたものは特に新鮮で美味しかったのは当然。
 メインはムール貝のワイン蒸し。バケツのような鍋ではなく、大きなドンブリのような皿に盛られて出てきた。これに山盛りのフライドポテトが付いてきて、1人前。フライドポテトはやや細目。ムール貝の味付けは、パセリ、タマネギ、ニンジン、ローリエが入っていて、スープはかなり胡椒が利いていて辛い。大量のムール貝だが、全く飽きがこないで、最後の1個まで食べ尽くした。 
 飲み物であるが、メニューを見るとやはりここはオランダ。ベルギービールは置いていないので白ワインをいただいた。

海タニシ

生ムール貝

ムール貝のワイン蒸し

付け合せのフライドポテト

【データ】 Restaurant Nolet Lepelstraat 7, 4401 EB Yerseke,Holland
Tel: 0113 - 57 13 09
http://www.restaurant-nolet.nl/

 フェリー

 イルゼークYersekeを出発。 Kruiningenからフェリーボートで南の対岸Perkpolderヘ向う。マイクロバスごと車を前進させて船に乗船する。このフェリーボートの乗船時間は約15分。対岸に着くとそのまま車を前進させて下船するようになっている。なお、帰りは船の頭は後ろになって、お尻が先頭になるという「両頭カーフェリー」である。
 乗船中は客室で過ごす。フェリーの売店で珍しいビールはないかと探してみると、Heineken Oud Bruinハイネケン・オッド・ブラーンというビールが目に付いた。有名なハイネケン銘柄のOud Bruin?---Oud Bruinという表示は、ベルギーでは、酸っぱいレッド・ビールやブラウン・ビールによくある表示。どんなビールなのか興味を持ったので購入して飲んでみた。アルコール度数2.5%。色はこげ茶のブラウンであるが、味は甘く砂糖水のよう。発泡感がなく、発酵前の麦汁のようである。期待した酸味は全く無い。ラベルには表示が無いが、これはテーブルビールである。★
 フェリーが陸地に近づくとのどかなオランダの風景。風車が見えるがそれは現代の風車。3枚の大きなプロペラが回転している。到着が近いので全員マイクロバスに再び乗車する。接岸して、船のゲートが開いた。係員の指示で順番に下船かと思いきや、まるでサーキット状態。特に係員もおらず、我先にと勝手に下船していき、危険である。
 我々の車も無事下船し、Perkpolderから、再びベルギー国内に入り、今度はボステールス醸造所があるBuggenhoutの町を目指した。

Amstel Malt
ノレットで見つけた物

Heineken Oud Bruin
(2.5% 30cl)
 

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