第5回ベルギー王国ビール探訪記(13)

6日目(1) ランビックの日
1. Brasserie Cantillon カンティヨン醸造所

 Brasserie Cantillon カンティヨン醸造所

 ランビックの日。集合時間は早い。本日は再び堀江さやか嬢を加え、フルメンバーでホテルを出発。
 カンティヨン醸造所についたのは、午前8時半。中から灯りが見えるが、まだ開いていなそう。扉の前で困っていると、2〜3分後に醸造所の人(娘さんのマガリーさんMagali Van Roy)がやってきてすぐに扉を開けてくれた。カンティヨン醸造所は、醸造所自体をオープンにして、グーズ博物館として公開している。本当は8時30分オープンなのだが、冬の薄暗い朝に見学に来る人も無いだろうから、正確に扉の鍵を開けなくてもよい。お客が来てからでも十分と考えているようである。

 私がカンティヨン醸造所を訪れるのはこれで4回目。道路に面した建物の前面の壁を塗りなおして、リフォームしたように見えるが、中に入ると全く変わっていない。野生酵母を使用するということで、醸造所の環境を変えることを最も嫌い、蜘蛛の巣一つ取らないと言っている醸造所である。

 扉を入ると土間になっていて、受付で入場料を支払う。小西酒造が作成した日本語の解説書を受け取ると、マガリーさんが最初の部屋に案内してくれる。マッシングタンクのある部屋である。ここで、簡単な説明を聞くと、そのあとは、順路に従って自由に醸造所内の見学ということになる。コースも設備も前回訪問時と同じなので、あらたに記述することは少ないが、再度繰り替えしではあるが、最新の写真を使用して、醸造所内を説明する。

原材料
原材料は、1回の仕込みで、小麦35%(450kg)、大麦麦芽65%(850kg)、ホップ(22kg)を使用する。なお、小麦はブラバント産の麦芽にしていない小麦、大麦麦芽は数種類の麦芽を使い分けている。なお、有機栽培の麦芽を使用し始めた。
ホップは古いホップを使用する。あくまで保存のためなので、苦味がきつくならないように古いホップを使用する(通常の約3倍の量)。

小麦・大麦麦芽・ホップ

麦芽の袋にはBiologischeの文字がある。
穀物倉庫
小麦、大麦麦芽、ホップの保存には通気性の良い屋根裏が適している。

麦芽

ホップ(Hallertau Hersbruckの文字が見える)
麦芽粉砕機
屋根裏(3階)の穀物倉庫から麦芽が投下されると下の階(2階)にある麦芽破砕機で、破砕される。粉砕の度合いにより、ろ過の具合や取れるビールの量が変わるので重要である。
マッシング槽
 破砕された麦芽は、さらに下の階(1階)にあるマッシングタンクに送られる。粉砕された小麦と大麦麦芽合計1300kgをタンク中央の攪拌プロペラによりお湯と混ぜ合わせる。2時間で温度は45℃から72℃になり、糖化が起こる。ここでプロペラを止め、静置し、二層に分離したのちお湯を加える。小麦と大麦麦芽の糖分が溶け出た液体をウォートと呼び、ポンプで上の階のボイリング・タンクにポンプで移される。
 なお、タンクに残った粕は家畜の飼料として利用される。

マッシングタンク

攪拌プロペラ
ホップ・ボイラー
ボイラーは赤銅製で、2基ある。ちょっと外観は異なるが、中を見るとホップとウォートを混合するプロペラと、蒸気を循環させるコイルがあることがわかる。
 煮沸前の約10,000リットルのウォートに約20kgのホップを加える。2つのタンクで約3〜4時間ボイルされ、殺菌する。この間2,500リットルが蒸発し、糖分の濃度が高くなる。
 煮沸後に残った7500リットルのウォートはフィルターでホップを取り除く。
冷却槽
7500リットルのウォートは、ポンプで屋根裏の冷却槽に移される。冷却層は赤銅製で、浅く表面積を広くとった形状をしている。これにより、効率よくウォートが冷却され、空気に触れることになる。
 ウォートは18度〜20度に冷却されるのが理想で、冷却は夜間に行われる。寒い期間にしか冷却できないので、ビール造りは10月下旬から4月初旬にかけて行う。

ウォートの蛇口
天井の隙間
 天井には無数の穴が空いており、外界と部屋の中は、空気が移動できる。夜間、天井の隙間から、冷却層の上に天然の酵母Brettanomyces Lambicus(Bruxellensis)が降り注ぐ。ウォートは40度まで下がると、天然の酵母が根付きはじめる。

天井から漏れる外の明かり

Brettanomyces Lambicus
ステンレスタンク
 翌朝、冷却されたウォートはステンレスタンクに移され、最終的に温度とプラトー度(酵母により、アルコールに変わる糖分の量)が調整される。
樽貯蔵室
 ウォートは、カシワ材か栗材の650リットルの樽11個と250リットルの樽26個に詰められる。
 数日後、自然酵母とウォートの糖分が反応し「自然発酵」を始める。始めは発酵が激しく、3〜4日間は樽の蓋を閉めず開口しておく。口からは白っぽい泡が出てくる。1樽で5〜10リットルのウォートが失われるという。
 4〜5週間過ぎると、今度はゆっくりした発酵が始まり、樽は密閉される。このブレンドしていない状態がランビック・ビールであり、複雑な発酵が最低3年間続く。
 ワインと異なり、蒸発し目減りした分を樽に補填することはないので、3年間で約20%目減する。
ろ過機
 瓶詰めの際には、ビールをポンプで大樽に移動するが、その際、沈殿していた酵母がビールの中に入り濁るのを防ぐため、フィルターでろ過する。セルロースの詰まった5層のフィルターは酵母の死骸はろ過するが、瓶の中で再醗酵するのに必要な糖分は通過する。

5層のフィルター

調整タンク
ボトリング
 ボトリングは1時間に1200本のスピードで瓶詰めされる。コルクで栓がされたあと、夏に高温でコルクが飛ばないように、さらに王冠で栓がされる。
 瓶はベルトコンベアーで貯蔵庫に運ばれる。
貯蔵室
 貯蔵室には全体で60,000本のビールがストックされている。瓶内再発酵に最低6ヶ月かかり、市場に出すまでに約3年かけているという。


瓶は交互に上手に積み重ねられている。
ラベル貼り、出荷
 醸造して樽で3年、瓶で3年もの月日を発酵、熟成したビールは、ラベルを貼られて市場に出て行く。

ラベル貼り機
※クリークのラベル貼り作業途中

樽にもラベルが貼られる。
写真は、カンティヨン・ヴィネロンの樽生

さて、一通り醸造工程を見学し、入り口の土間に戻ってくる。息子さんのジャン・ヴァン・ロワさんがグラスにビールを注いでくれた。お父様の方のヴァン・ロワさんは、ちょっと出かけていて留守とのこと。お会いできないのが残念。

LAMBIC(1年ものランビック)(右)
※ほとんど泡立たない
GUEUZE(左)
※泡立ち良好

KRIEK
 いただいたのは、3種類。まず1年もののランビック。やや酸味があるが、バター茶、紅茶のようでいわゆるランビックの味。グーズのような発泡感も酸味も複雑味もこれからというもの。次にグーズ。これは、カンティヨン・グーズの味そのもの。1年〜3年もののランビックをブレンドしたもの。最後にクリーク。ランビック500kgに対して150kgのクリークを漬け込むという。もちろん酸っぱいがバランスがとれた酸味である。

ヴァン・ロワさん一家

カンティヨン醸造所全景
 ビールを味わい、お土産も購入していよいよ醸造所をあとにしようと思ったとき、ヴァン・ロワさんが帰ってきた。みんなに別れを言って我々は次の醸造所に向かった。
【データ】 Brasserie Cantillon
56 rue Gheude, 1070 Brussels Tel:+32 2 521.49.28 Fax:+32 2 520.28.91
http://www.cantillon.be

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