第4回ベルギー王国ビール探訪記(8)

3日目(2)
3.フリアート醸造所 Brasserie Friart
4.エクセルシオール L'Excelsior
5.キャンピュス Le Campus

 フリアート醸造所 Brasserie Friart

フリアート醸造所の本社(ドリンクマーケット)

 フリアート醸造所は、モンスの近くにあるLe Roeulxルールという町で1873年から醸造所を営んでいる。しかし、1978年にいったん廃業して、幹線道路沿いでドリンクマーケットを営んでいた。しかし、この醸造所の娘さんで、現社長の妹さんが昔を懐かしんで、1988年に醸造を再開したのである。
 この醸造所の主要なビールはサン・フイヤンSt.Feuillien銘柄のアベイ・ビールである。この銘柄は有名だったので、醸造所が休業中の時もデュボック醸造所に委託醸造してもらって販売を続けた。
 醸造を再開するにあたり、このデュ・ボック醸造所との契約が残っていたために、現在でもサン・フイヤン銘柄はデュ・ボック製とフリアート製の2種類が存在するという混乱した状況が続いている。デュボック醸造所もフリアート醸造所も同じレシピで作っているにも関わらず、アルコール度数や味が異なるのである。

 我々がルールの町の中心部をさまよって、フリアート醸造所を探していたとき、町の人に教えられたのはドリンクマーケット方であった。しかし、それはたまたま幸いで、そこに事務所があり、社長さんもいらっしゃった。でも、醸造所の見学の件は聞いていないという。山田さんは「確かにご本人に電話で連絡をして見学の許可を取ったのに」ということで、ベルギー人のおおらかさというか、おおざっぱさというか、いいかげんさを実感したのである。

 とりあえず、醸造所の方は見学させてくれるということになって、再び町の中心部に引き返す。

社長さん(左)と山田さん(右) 事務所には全商品が並ぶ

 さて、本来の醸造所の建物に着く。その建物はレンガ造りで、100年以上もこの建物で醸造していたという貫禄がある。入り口の壁にはビールの王ガンブリヌス像が飾られ守り神にしている。醸造所の案内は若い醸造技術者のアレクッスさんである。

醸造所の建物 壁にはビールの王ガンブリヌス象 案内のAlexis Briolさん(左)は、醸造技術者
 まず、建物に入ると最上階の4階というか屋根裏部屋に案内された。そこはモルトの貯蔵室となっており、モルトは、床に空いた穴から3階にある麦芽破砕機に落とされる。3階で破砕された麦芽は、2階の仕込み釜へ落とされる。仕込み釜の隣に1階と2階を貫く発酵タンクがあり、1階の別部屋には貯蔵タンクがある。

 醸造工程は、上の階から下の階にうまく流れるように工夫されているが、昔はどこの醸造所もこの建物のようになっていたという。醸造規模はこじんまりとしていて、山田さんは、「この程度の醸造所だと、設備を見て、造り方が本当によくわかりますねえ。」
 麦芽は、チョコレート・モルト、カラメル・モルト、ウィーンモルトなど用い、ホップはシチリアン・ゴールドを使っている。ビールにキャンデー・シュガーを加えることが多いが、この醸造所ではキャンデーシュガーは用いず、果糖とグルコーズを使っているという。
 醸造には2人、瓶詰めに2人があたり、合計4人でビールを作っているというから本当に小さな醸造所である。

↑最上階(4階)は麦芽倉庫
麦芽の破砕(3階)
↑3階から2階にモルトが送られる
仕込み釜(マッシュタン)(2階)
麦芽を溶かし、糖化。ろ過。火入れ。
※ステンレス。MEURA社製
発酵タンク(1階から2階)
←貯蔵タンク(1階別室)
↑冷却機と冷却されたビールをためる漕    ↑ホップと麦芽の見本
醸造用具→
※醸造用具は昔のと言いたいが、今も使っているという。

 貯蔵タンクまで見たあと、いったん中庭に出て、別棟に案内された。そこは、瓶詰め工場で、瓶詰め機があった。隣では、9リットル瓶にラベルを手作業で貼っていた。
 デュ・ボック醸造所との契約では、デュ・ボックは小瓶250ml、330mlと大瓶750mlを生産する契約になっているという。であるので、フリアート醸造所ではそれ以外の瓶のサイズということで、サン・フイヤンのマグナム1.5リットル、さらには3リットル、4.5リットル、6リットル、9リットルを製造している。昔は15リットルの瓶もあったというが、今はないという。その理由は、15リットルの瓶は大きすぎて冷やすことが困難なためだという。
 瓶詰め機であるが、マグナム以上の大きな瓶への瓶詰め機もあるが、330ml用の瓶詰め機らしきものもある。330mlのサン・フイヤンは製造していないということなのになぜあるのか?不思議である。例えば、この醸造所ではグリセット(250ml)という銘柄も作っているので、それ用かもしれないが不明である。

瓶詰め機
330ml用?
マグナム1.5リットルの
瓶詰め機
大きな瓶のラベル貼りは手作業
※位置合わせの道具を使用して
正確に貼る

瓶詰め工場の建物を抜けると、つぎは瓶の貯蔵庫である。

貯蔵庫の扉
※小さな部屋に分かれている。
中には大きな瓶が貯蔵されている
貯蔵温度は、19度前後の温度を指している

 一通り見て回ったあと、最初の醸造設備のある建物の地下室に入る。地下には試飲室が設けられていた。ドリンクマーケットの事務所にはデュ・ボック製のビールも含めてすべて展示してあったのだが、この部屋に飾られているビールはマグナム以上の瓶である。やはり、この建物ではマグナム以上の瓶しか製造していないように思われる。
 この部屋で、ビールを試飲する。グラスに注いでもらうが、瓶がマグナムなので注ぎ難そう。St.Feuillien Noel(150cl)とSt.Feuillien Blond(150cl)を味わう。ほかにSt.Feuillien 1873-1998という醸造所125周年記念ビールが展示・販売されていて興味を惹いたが、なにせマグナムボトルなので日本への持ち帰りは不可能と思い、断腸の思いで購入を諦めた。

試飲室 ノエルを注いでもらう
この建物で醸造されているビール
St.Feuillien Noel(150cl)(左)
カンゾウの薬味。コク、すごい。★★★★
St.Feuillien Blond(150cl)(右)
ハーブはシークレットというが、ホップはシチリアン・ゴールドだと教えてくれた。
★★★★

 醸造所の見学が終わって、午後3時過ぎとなった。ちょうど会社の会議の時間だということで、我々が建物を出たとき、社長さんがドリンクマーケットの事務所から醸造所へやってきたので、お礼を言って醸造所を後にした。

ドリンクマーケットの内部
※ドライブスルーになっていて、車は2列並ぶことが出来る。

 我々は再びドリンクマーケットへ車で行く。こちらは、ドライブスルーになっている酒屋である。ベルギーの人たちは、こうした店に車で来ては、ケース単位でビールを購入していくようである。

 店にあるビールはフリアート醸造所のビールに限らず、他のメーカーのビールも置いてある。探して回ると、フリアート醸造所のビールで日本に輸入されていないものが見つかった。サン・フイヤンのトリプルとグリセットのアンバー、それにウィットである。グリセットはラベルが新しくなっていたのでブロンドも含めて3種類購入した。

 ビールグラスにも欲しいものがあった(オルヴァルの新しい形状のグラスなど)が到底日本に持ち帰れないので諦めた。ビールばかりでなくワインも置いていて、フリアート醸造所と別経営にも思える酒屋さんであった。

【データ】 Brasserie Friart (Rue d'Houdeng 220, 7070 Le Roeulx )
Tel 064 662151 /Fax 064 676730
http://www.creativem.com/Stfeuillien/

エクセルシオール L'Excelsior

↑モンスのグランプラスにある市庁舎
エクセルシオールは市庁舎の並びにある→

 フリアート醸造所から近いモンスの街へやってきた。モンスは中世からの伝統的な街。街には教会も多く、ちょっと寄っているうち、だいぶ暗くなってきた。街の中心のグランプラスでモンスの街の名ビア・カフェを探す。

 ワロニアの小さな醸造所のビールの種類が多いというエクセルシオール L'Excelsiorailに入る。店の一番奥がカウンター席であるが、手前のテーブル席に席を取る。店内は、さすがにグラン・プラスに面する店らしく、ちょっと古びた伝統を感じさせる造りである。しかし、木でできたテーブルやイスがカタカタして、安定していないのがちょっと困りもの。
 メニューには約80種類のビールが載っていて、少しわくわくさせられたが、以外にも飲んだことのあるビールがほとんどであった。それでも珍しいものとして、Noël de Silenrieux(75cl 280BF)やQuintine Saison2000(33cl 130BF)などを注文する。 Noël de Silenrieuxは、いかにも本来のセゾンビールが有するべき酸味がある。ローデンバッハのようなブラウンビールにも似ているが、時間とともにホップの苦味が効いてきた。★★★。Quintine Saison2000はこの醸造所特有の麦芽の甘味の強さがある。もともとの麦汁濃度が高いのであろう。色はブラウンかと思えばそうではなく、意外にもブロンドからアンバーの中間の色。濁っており、香り高い。苦味もある。★★★☆。他にOrval(33cl 6.2%)を味わう。ベルギーで味わうオルヴァルは、いつもいつも旨いというわけではない。私は味わう時には味に波がある。しかし、この日のオルヴァルは満点★★★★であった。オルヴァル特有の香味に加え、まろやかですうっと喉を通っていった。
 メニューには、さほど驚ろかなかったが、ちょっとトイレに寄る途中、冷蔵庫を覗くと、そこには見たことの無いビールが一杯並んでいた。メニューに載っていないビールが沢山あるのである。残念ながら、この日はもう飲めないので諦めるしかなかったが、やはりこのビア・カフェは素晴らしいビアカフェの一つに数えてよさそうだ。

Noël de Silenrieux
(7.5% 75cl 280BF)
Quintine Saison2000
(33cl 130BF)
カウンターの様子
【データ】 L'Excelsior (Grand Place 29, 7000 Mons)
Tel 068/56.85.27 月曜休

キャンピュス Le Campus

 モンスからブリュッセル市内に戻ると、もう夜も遅くなっていた。夕食を取っていなかったので、山田さんは昔住んでいたという場所に案内してくれた。ブルッセルのIxelles区である。夕食は、やはり昔通ったというレストランでカンプス Les Campusというお店である。夕食を食べていないとはいえ、ビールを飲みっぱなしなので、食事をしっかり取ろうという人はおらず、なるベく軽いものを注文する。しかし、ここは日本と違い、スパゲッティひとつとっても大盛りで出てくる。代官はスープだけ頼んだのだが、それすら口にいれることが出来なさそう。
 私もビールはもう飲めそうにない。そこでワインを与力と一緒に飲むことにした。ベルギーでは食事にワインを合わすのが普通なのである。注文したワインは、フランスのアルザス地方のワイン。RITZENTHALER Vin D'Alsace Tokay Pinot Gris 1997(13%)である。シコンのグラタンにはよく合い、美味しくいただいた。

Les Campusの入口 昔、Moeder Lambic Ixellesだったところ。今はDanse Des Paysansという店になっている。 シコンのグラタン(295BF)とアルザスワイン(885BF)

 お腹も一杯になって店を出た。車が置いてあるところまで歩いていく途中、かって有名だったMoeder Lambic Ixellesがあった場所の前を通った.。我々がもっとも愛するMoeder Lambic St.Gillesの姉妹店だった店である。店名はDanse Des Paysansと変わったが、今も60種類程度ののビールを置くらしい。


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