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ゲントは中世以来、ブルージュと競い合った運河の街。近代には工業都市として発展したが、今だに中世の街並みが残る。
この街には実に多くのカフェがあり、延べ2日間に渡ってこの街を訪れたが巡りきれない。オランダ語圏なので
メニューはどの店もオランダ語(フラマン語)なのが不便。
デ・デュレ・グリート De Dulle Griet | トロルケルダー Trollekelder |
その他のゲントのカフェ |
デ・デュレ・グリートは250種類のビールを置く店。店内はやや広く、席数も随分多いようだ。天井には陶器のジ ョッキがいくつも吊り下げられ、壁にはビールの看板や旗幕が多数貼られている。さらに奥のテーブルの幾つかはラン ビックビールの発酵・熟成樽の上に丸い板を乗せて設えたもので、マニアックなビア・カフェの雰囲気がある。この店の名物はパウエル・クワックPAUWEL KWAKの樽生ビールで、高さ1mはあろうかという巨大なグラスで飲ませる。 独特な形状をした貴重なグラスを盗まれないようにするため、これを注文した客は履いている靴の片方を店に預 けなければならない。預けた靴は天井から吊り下げられた篭に入れられてしまう。さらに、ビールを全部飲み干さねば靴は返してもらえないというシステムになっている。店の看板にも大きなグラスと片方の釣り下げられた 靴の絵が描かれている。しかし、周囲の客を観察してみても、この有名なグラスでビールを飲んでいる人は1人もおらず、レフLeffeなどの有名銘柄の瓶ビールを味わっている者が多い。
さて、この巨大なパウエル・クワックを飲もうと日本から意気込んでやって来た我々であるが、散々迷ったあげく結局別のビールを注文することになった(実はすでに昼食で白ワインを2人で1本空けたばかりであった)。 豊富なメニューからヴァン・デン・ボッシュVAN DEN BOSSCHE醸造所のペーター・ルーヴァンPATER LIEVEN のブ ロンドBLONDE(110BF)とブリュヌBRUNE(110BF)を選ぶ。次に、無ろ過で旨いランビックビールと言われているデ・ トロヒゥDE TROCH醸造所のシャポー・グーズCHAPEAU GUEUZE(375 145BF)とこの街の名を冠したゲント・トリプル GENTSE TRIPEL(110BF)を注文。後者はこの街の有名なビアカフェ、ホップデュヴェルDE HOPDUVELのレシピによ りヴァン・ステーンブルグVANSTEENBERGE醸造所が醸造するビールである。この街のどこのカフェでも大々的にポスターが貼られPRされていたこの街のお薦めビールである。
評価:CAFE★★★ BEER★★★ |
店名のトロルケルダーは、北欧神TrolleトロルのCeller地下貯蔵庫という意味である。近くにはトロル人形の店もあったが、
この街はこの神様と何か関係があるのだろうか。レンガ造りのフランドル伝統の建物だが、ビールの看板やステッカー
などをベタベタ貼っているビアカフェが多い中、この店はそういうものを一切店に貼っておらず、目の前のライト
アップされた聖ヤコブ教会とともに古都の景観を守っている。店に入るとカウンターとテーブル席があるが、
広場に面した方は中2階になっていて、我々はそこに席を設けた。メニューにはビールが120種類程度とワインが
掲載されていて、カウンターの隣のチーズケースには20数種類のチーズがあった。ビール、ワイン、チーズの3つとも
本格的に味わえるカフェである。メニューの表紙にはウェストマレ・トラピストWESTMALLE
TRAPPISTの文字がプリン トしてある他、数ページにわたってビールと修道院の写真や解説が詳細に記載されていたが、修道院と何らかの関係がある
のだろうか。ビールはタイプ別に分類されていて、それぞれの銘柄には色Kleur=Colour、味Smaak=Taste、瓶の容量、アル
コール度数がきちんと表示してある。トラピストビールの項には幻のウェストフレテレンのEXTRA>GとABTKも載っている。
さて、我々は樽生の項(Bieren van'tvat)にウェストマレ・ダブル生WESTMALLE
DUBBEL van't vat(330ml 100BF)を見つけ、 さっそく味わうことにした。ダブルのビールといえば普通はやや甘味があり濃醇なものだが、この樽生は甘味をかなり押
さえた軽い造りにもかかわらず複雑な味わいを持ったビールで、瓶詰のものとはかなり異なりフレッシュな印象を受けた。
一緒に注文したビールは、この店のオリジナルのトロル・ビールTROLLE
BIERの樽生(250ml 95BF)で、醸造元などは不明。
ホップの苦味が強いトリプル系のビールである。なお、樽生には1Lと2Lでの価格表示もあり、ウェストマレの2Lは
690BF。一体どんなグラスで出てくるのだろうか。
次はアベイビールの項(Abdijbieren)からセント・イーデスバルド
ST.IDESBALDのTRIPLE(120BF)とDUBBEL(110BF)を注文。
お釜状の陶器の器でビールが出てきたが、器にはちゃんと
ST.IDESBALDの文字が刻まれており、この変な器がオリジナルグラスであることがわかる。我々は、抹茶の茶碗のつもりで
飲んだので多少違和感が薄らいで飲めたのだが、他のテーブルでもこのビールを頼んでいる者がいて、見ていると人差し指を器
の内側に入れて親指と中指で外側を支えるという危なっかしい持ち方をして飲んでいた。この変わったビールは、日本でもお馴染みのデリリューム・トレーメンスDELIRIUM
TREMENS やギロチンLA GUILLOTINEなどを醸造しているヘイゲHUYGHE醸造所のも
のである。
最後はアベイ・ド・ボンヌ・エスペランスABBBAYE
DE BONNE ESPERACE(120BF)とランビックビールの項からハンセン・
クリークHANSSENS KRIEK(375ml,160BF)
店内はバロックやクラシックの音楽が静かに流れ、落ち着いた雰囲気である。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を聞き終えたところで、我々は店を出た。
ビールはフランドル地方のビールが中心で約100種類のビールがメニューに載っているが、その中には12種類もの樽生ビールが含まれて いる。運河に面したテーブル席からの景色が最高なので、そこに着席する。店内を見渡すと壁や天井の梁にはホップが飾り付けられ、 日本にも輸入されているデリリューム・トレーメンスのラベルの絵柄になっているピンク色の象のモビールがいくつも天井から吊り下げられている。デリリューム・トレーメンスDELIRIUM TREMENSは「アルコール中毒による震え」という意味で、ベルギーでは 酔っ払って夢を見る時、最後に現われるのがピンク色の象だと言われている。このビールがお薦めのようで、各テーブルにもデ リリューム・トレーメンスの瓶が置かれている。 フランドル地方では、オールド・ブラウン(アウト・ブラインOUD BRUIN)というタイプのビールが有名なので、そのタイプからまず 選ぶ。ストゥルベSTRUBBE醸造所のイヒテゲム・アウト・ブラインICHTEGEM'S OUD BRUIN(70BF)は、ビール評論家のマイケル・ ジャクソンがレッドビールと分類した特殊なビール *注である。 デ・スメットDE SMEDT醸造所のナポレオンNAPOLEON(95BF)もオールド・ブラウン的なビールで、リーフマンLIEFMANS醸造所の グーデンバンドGOUDENBANDに似ているが、酸味をほとんど感じなかった。
冬の季節、ベルギーではビールを暖めて飲むという伝統的な飲み方がある。そのホット・ビールであるWARME
KRIEK(110BF) を注文すると、ティメルマン・クリークの瓶を奥から取ってきて瓶燗し始め、それにシナモンの風味を付けたものがコーヒーカップで供された
。
*注 マイケル・ジャクソン『地ビール世界』(P167)
【データ】 HET WATERHUIS AAN DE BIERKANT (9 Groentemarkt,GENT) 09 225 06.80 11:00〜2:00 評価:CAFE★★★★ BEER★★★★
AUGUSTIJN | 33/50c | Blond | 85/130- | ||||
BARBAR | 33/50c | Blond | |||||
BITBURGER | 30/50c | Blond | 60/95- | ||||
BUSH7 | 25/50c | 65/120- | |||||
DE KONINCK | 30/50c | Ambee | 60/95- | ||||
DENTTERGEMS WIT | 25/50c | Wit | 60/110- | ||||
GAULOISE | 25/50c | Blond | 85/130- | ||||
HOMMEL | 25/50c | Blond | 75/140- | ||||
KRIEK LIEFMANS | 25/50c | Rood | 80/140- | ||||
RODENBACH | 25/50c | Bruin | 65/120- | ||||
TERDOLEN | 25/50c | Blond | 70/130- | ||||
Bruin | 85/130- | ||||||
ホップデュヴェルは、ゲントで最も有名なカフェの一つであるが、観光の中心から離れた所にあり、随分探してやっ との思いで辿り着いた。そこがカフェであるとはすぐには解らないほど控えめな看板が扉にあるだけの店である。入っ てすぐの部屋がカフェで、奥の部屋ではレストランを経営している。店名のホップデュヴェルは「ホップの悪魔」 (ホップデビル)の意味でホップの病害虫のこと。壁には木の枝で作ったホップデビルの人形を飾る他、デビルをモチーフと した4枚のリトグラフや大きな壁画もある。メニューにもデビルの絵がカットとして使用されている。ビールの看板やス テッカー、プレートといった壁の装飾、天井から吊り下げられた数多くのジョッキ、ホップの鞠花を飾りとしたレンガ造 りのカウンターなど、ビアカフェとして由緒ある店の雰囲気が十分感じられる。
メニューには 約120種類のビールがトラピストビール、樽生ビール、アベイビール、地ビール、グーズ−クリークに 分類され記載されている。土地柄フランドル地方のビールの種類が多い。ビールのタイプ(AM、BR、BL、ROと表示)や アルコール度数の記載もあるので選択には困らない。まず、フランドルのゴールデンエールでフランドリアン FRANDRIEIN(60BF) を注文した。店員を見ていると、グラスへの注ぎ方がちょっと面白かったので紹介しよう。@瓶をグラスにあてがい少し注ぎ始め ると、Aだんだんと瓶をグラスから遠ざけ、B60〜70p離れたところで丁度ビールが注ぎ終わるように注いでいた。 空気に触れさせた方がよいとの理由からなのだろうか。ビールの発泡感が弱まり、まろやかな舌触りになるとは思うが。 次にファキールFAKIR(托鉢僧の意、115BF)というビールを注文したが、この銘柄はワロニアのバンショワーズ・ ブロンドBINCHOISE BLONDE のフランドル地区用、そしてカナダへの輸出用のラベルのものである。ベルギーでは、 同じ国内でも語圏の異なる地域用に別ラベルを使用していることがあり、消費者の誤解を招くとの批判もある。 最後にゲントの隣町アウデナールデにあるクラリスCLARYSSE醸造所のフェリックス・スペシャル・アウデナールデ FELIX SPECIAAL OUDENAARDS(50BF) を注文。これはブラウンビールで、軽い酸味と収斂性を感じるさわやかで飲みやすいビールであった。
他には常連客のグループが1組いたが、1人帰るとまた別の人がやってくる。新しくやってきた者はビール を頼むが、それっきり他の誰もビールを注文しない。みんなビール1杯だけでずっとこの店で語らっている。ベルギービール本来の飲み方をしている。
09 225 37.29 11:00〜 |
ここでは、店には入らなかったが現地で気になったビア・カフェを紹介する。
グラスレイに建ち並ぶ中世のギルドハウスで営業しているのが、デ・ウイット・ルー
DE WITTE LEEUW (「白いライオン」の意) である。観光客の目につくように、路上のテーブル上にメニューとビール瓶を10
本ほど並べている。ベルギーのカフェやレストランの前には、大きなベニヤ板にユニークなデザインをペイントした看板がよく立て
掛けられていて、それを見て回るのも結構楽しいものであるが、この店の看板もユニークで、白いライオンのウエイターが母娘に
メニューとビールを供しているデザインである。ビールは100
種類ほどあるらしく、軽食も食べられる。 絞首用の縄という意味の店名のストロプケ'T
STROPKE は、観光ポイントであるフランドル伯の城(拷問室や牢獄があり、ギロチンや拷問道具などが陳列してある)
から歩いて100mほどの所にある。ビールは80種類ほど揃えていて、店のウインドウにビール瓶が並べられて
いた。ゲントの地ビール醸造所ということで、VAN
STEENBERGE醸造所のGULDEN DRAAKやCHATEAU DES
FLANDRES、 GENTSE TRIPEL、PIRAAT、AUGUSTIJN、SLAGHMUYDER醸造所のSTROPEKEN等を置いている。GENTSE
TRIPELと STROPEKEN(フランドル泊の城と絞首用の縄がラベルデザイン)は、カフェのDE
HOPDUVEL のレシピによるビールである。ゲントには、まだまだ訪れるべきカフェが多い。
(奉行)
【データ】 DE WITTE LEEUW(6 Graslei,GENT) 09.223.79.83 11:00〜1:00 'T STROPKE(14 Meersenierstraat,GENT) 09.224.36.00 11:00〜21:00
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