ベルギービールの特質・種類(1)

ようこそ!ベルギービールの世界へ。
ベルギービールの特質

ベルギービールは、特別なビールです。

ビールの原材料にこだわる人なら、ビールは麦100%で造られるべきだとして、日本の大手メーカー製のコーンスターチや米を使用したビールを嫌っているかもしれません。1516年4月23日に施行されたドイツのビール純粋令(Reinheitsgebot)によると、「ビールは、大麦麦芽、ホップ、水だけで造る」(※酵母はこの当時未発見、1551年に追加された。小麦麦芽を使うヴァイスビールは例外として認められている)ことになっています。ドイツではこの法令に基づいて、麦芽100%のビールを伝統的なビールとして大事にしています。しかし、これをベルギービールにあてはめ、麦芽100%であることを信条としてビールを定義してしまうと、伝統的ベルギービールは、ビールではなくなってしまいます。

 伝統的ベルギービールの中には、ホップを使用しないで、他のハーブやスパイスを加えたビールがありますし、ホップを使用していても、さまざまなハーブやスパイスを加えることが普通です。ホワイトビールでは、麦芽にしていない小麦を使用します。大麦以外にもオーツ麦、カラス麦などさまざまな穀物を使用するビールがあります。ランビックビールにおいては、チェリーやフランボワーズ、その他さまざまなフルーツの果実やジュースが使用されます。
 ベルギーでは、ホップや大麦麦芽にこだわらず、さまざまな材料でバラエティーに富んだビールを造っているのです。ですから分類しにくいほどさまざまなタイプのビールがあります。

ベルギービールを考えるとき、まず、ビールの歴史を知らなければなりません。「伝統的ベルギービール」と書きましたが、ホップがビールの主原料の一つとなったのは、13世紀においてのこと。それまでは、雑多なハーブ、スパイス類がビールの味を調整するのに使用されていました。たまたま、ドイツにおいては、ホップ使用の定着度が早かったため、ビール純粋令が出されたと見ることもできます。ビール純粋令の法令・規定が適用されないドイツ以外の国においては、ハーブ・スパイス類を使用しつづけました。デンマーク北部やベルギーにおいては、現在までホップを使用することが定着する以前のハーブ・スパイスを使用したビールの伝統的製法が残ったと考えられます。

もう一つ、ベルギービールを特化している要素として、ランビックビールに見られる、自然酵母(野生酵母)の使用(利用)があげられます。
 19世紀半ばに酵母の純粋培養が出来るようになりましたが、ベルギーにおいては、そんなことにはおかまいなく上面・下面発酵酵母どころか、空気中に浮遊する野生酵母を自然に取り入れた酸味高いランビックビールを伝統として造っていました。ランビックビールの醸造所では、最上階にある冷却漕に、自然界に存在する野生酵母が降り注ぐように、屋根に隙間があいています。
 実は、ランビックビールの醸造所に限らず、古い醸造所の建物を見学すると、建物の最上階に冷却漕があって、天井に必ず空気を通すような窓が付いています。空気(気温)でビールを冷却する目的だったのでしょうが、その間に、どうしても自然界の野生酵母が入り込みます。結局、上面発酵酵母を用いたスペシャルビールを製造するに当たっても、そうした古い醸造設備を使った醸造所(例えばクロンベ醸造所やグーデン・カロルス醸造所)のビールには野生酵母の影響を受けたとしか思えない独特の酸味と複雑な味わいが生じてきます。本来、野生酵母の混入はビール製造の上で避けなければいけないことにも関わらず、昔の人たちは知らず知らずのうちに行い、世界でもベルギーにしかない珍しい味わいのビールを作り上げたのです。

最後に、トラピストビールの存在があげられます。トラピストビールとは、修道院の中でも最も禁欲的なトラピスト派(厳律シトー修道会)の修道院で醸造されるビールの総称です。世界でもベルギーに6つ、オランダに1つ(※オランダのLa Trappeは、1999.12.1から僧が醸造に関わらないとしてトラピストビールの称号を剥奪)あるだけです。
 ビールの醸造は、キリスト教と深く関係しています。古くからブドウが採れない北部ヨーロッパでは、ワインの代りにビールを醸造していました。修道院においてもワインの代りにビールが供されました。また、中世のペストの流行の時、水を飲まないで、ビールを飲むよう人々に説いた聖人もいます。一度煮沸する工程が存するビールは安全な飲み物として推奨されたのです。
 世界のビールの中で高い評価を得ているトラピストビールの成功を見て、トラピストビール風のビールも生産されています。トラピスト会以外の修道院で、昔ビールを醸造していたところには当時のレシピが残っていて、その修道院の名を冠したビールを民間の醸造所が契約醸造しています。今はない修道院の名を冠したビールや修道院的名前のビールもあり、これらをアビビールと呼んでいます。味わいもトラピストビールに近く、高品質なものも多数あります。トラピストビールは、現在、その収益を慈善事業に用いるべく生産されていますが、アビイビールは営利を目的に醸造されているということが大きな違いです。

ベルギービールを飲むときは、オリジナルグラスを使います。

ビールのタイプ・種類に応じたビールグラスが存在し、それぞれのビールの香りや味わいを最大限に引き出すのに適した形状となっています。ワインにもフランスのボルドー赤用・白用、ブルゴーニュの赤用・白用、ドイツのライン用・モーゼル用などワインの個性を発揮させるためのさまざまな形状のグラスがあるのと同様、ベルギーでは、ビールの銘柄ごとにオリジナルグラスが存在するのです。醸造所では、新しいビールを造るごとにグラスメーカーへ行って、そのビールに適した形状のグラスを決めます。
 ですから、多数の種類のビールを置くビア・カフェでは、カウンターにいくつものビールグラスが並べられていて、光り輝いています。

 ビールを注文するとき、必ず銘柄を言って注文します。

ビールの種類が1200種類以上もあるので、大抵のビア・カフェでは20〜30種類のビールが置いてあります。メニューには、そのビールの銘柄名が書いてあります。日本みたいに「ビール」とだけ書いてあるメニューには、まだ出会ったことがありません。
 ビアカフェで置くビールの瓶は小瓶が中心で、250mlか330mlなので、2〜3本飲むなら、やはり銘柄の異なるビールを飲みたいものです。日本のように大瓶が中心で633mlも容量があるのとは異なります。ベルギーでは、ビールを1本だけ注文し、1時間もかけてゆっくり味わう人も多くいます。中国や韓国も含め、料理がメインで、食事の時に料理を胃に流し込むための飲み物としてビールが考えられているのとは大きく異なっています。
 「とりあえずビール」という言葉は、通用しません。
 逆に、レストラン以外では、ワインのメニューは、「赤ワイン」、「白ワイン」といったように銘柄指定なしのメニューが普通です。

ビールを使った料理が、たくさんあります。

ベルギーでは、ビールを料理に使用する場合、ビールならなんでもよいというわけにはいきません。ウサギのモモ肉のグーズ煮、ムール貝のグーズ蒸し、牛肉のカルボナード(ブラウンビールを使用)など、特定の種類のビールを使った料理が多数あります。ベルギー料理を作ろうとして日本の大手メーカーのビールを鍋に注いでも、ベルギー料理にはなりません。

ビールを熟成させて楽しむこともできます。


アントワープにあるクルミナトゥールのメニューには、ビールにヴィンテージが記載されている。

ビールにヴィンテージが記載されているものがあります。ベルギービールには、基本的には賞味期限がありません。しかし、EUの法律によって賞味期限を明記しなければならず、また、海外へ輸出するビールにも賞味期限を明記しなければならないので、とりあえずの賞味期限が書いてあります。しかし、これにこだわる必要は全くありません。ワインにオールド・ヴィンテージがあり、日本酒にも古酒があるように、熟成を楽しめるのがベルギービールなのです。「熟成ビール=ラガー」という大手メーカーによる表現がありますが、ベルギービールの場合、全く異なります。
 ベルギ−ビールの古酒の世界にはまると、もうマニアの世界すら逸脱しているとしか思えません。

無ろ過のビールが多数あります。

ベルギービールには、酵母を取り除かないビールが多数あります。日本の生ビールの場合、酵母はミクロフィルターでろ過されているので、ビール内には酵母は存在せず、その分変質しません。ベルギービールの場合は、ろ過しないどころか瓶内2次(3次)発酵をさせるべく、瓶詰め前に一工夫あるビールが多数あります。無ろ過のワインが推奨されるように、ビール通の間では、無ろ過のビールが珍重されています。
 しかし、ビールを飲む場合は、瓶を静かに立てて酵母が底に沈んだ状態で、オリがグラスに入らないように注ぐことが公式には推奨されています。最初はその状態で味わいますが、あとで瓶に残った澱をグラスに入れて飲んじゃう人も多数います。酵母は健康にいいとベルギー人も思っています。

ベルギービールは、ワインと同等の飲み物です。

ベルギービールを飲む際、まず色を見ます。次に香りを楽しみます。そして口に含みます。ビールの吟味の方法、銘柄へのこだわり、グラスへのこだわり、料理との相性など考慮すると、すべてワインと共通していることがわかります。ここまで、ワインとビールを同化させている国がベルギーなのです。


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