ベルギービールの特質・種類(3)

ベルギービールグラス(1)
グラスの形状

ベルギービールには、それぞれの銘柄に対してオリジナルグラスがあります。ビールはオリジナルグラスで飲む時に、その香りや味わいがもっともわかると言われています。 

新しい銘柄のビールが醸造されると、醸造元はグラスメーカーに行って、そのビールの香りや味わいが最大限に引き出せるような形状のグラスを選び、ビールのロゴを入れ、グラスを発注します。ただ、実際にはビールのラベルデザインがしょっちゅう変更されるように、オリジナルグラスの形状を変えたりしますので、必ずしもオリジナルの形状でないと本来の香りや味わいがわからないというわけではなさそうです。

また、ビール名の由来や歴史的な事実などから特別な形状を造ってもらうこともあります。愛飲家はそのグラスで飲むことでビールの歴史的由来などを思い起こします。トラピストビールやアベイビールの多くの場合は、教会で使用している聖杯をモデルにしています。

しかし、ワインを味わうときにもグラスにシャンパン型、ボルドー型、ブルゴーニュ型、または赤用には少し大きめのものとか、ある程度のルールで使い分けているように、ベルギービールを味わうときには少なくてもそのオリジナルグラスの形状に近いものを使用する必要があります。

ベルギーではビールを1000種類も揃えるようなビア・カフェでは、オリジナルグラスのすべてを揃えておくことは困難なので、オリジナルグラスがたまたま無いときは、オリジナルグラスと同形状の他銘柄のグラスや形の似たグラスでビールを提供しています。
 家庭で味わうときでも同じことで、食器棚にベルギービールグラスだけを並べて置くスペースを確保することはやはり困難です。
それでも、最低限揃えておくべく形状がいくつかあります。普段使用するには3つのタイプのグラスを用意しておけばよいでしょう。ここではグラスのタイプを大雑把ですが4つにまとめてみます。
CBBでは、ビールタイプによってグラスの形状をこれだけ用意していいます。

1.ピルスナー型・タンブラー型(Straight glass)

ビールのタイプでいうと、ピルスナー、ランビック、グーズ、ホワイトビールなどをこのタイプのグラスで味わいます。
 厳密にはホワイトビールの中のヒューガルデン・ホワイトなら厚手のガラスを用いた六角形のグラスを使用します。これは清涼感を維持するため手の熱をビールに伝えないようにするための工夫です。できれば1つは欲しいグラスです。
 また、ホワイト・ビールで香りを楽しむためには、縦長で口がすぼまっているタンブラー型(Tumbler)のグラスが一般的で、ドイツのヴァイツェンもこのタイプのグラスを使用していますが、それはヴァイツェン型とも言われます。
 ランビックはグーズよりも一回り小さくカットのないピルスナー型(Pils)のグラスを使用します。若いランビックは泡立ちがほとんど無いので泡の分グーズより小さくてもよいのでしょうか。グーズでは泡立ちがよいのでやや大ぶりのグラスで、さらにカットがほどこされたグラスが一般的です。色や香りを楽しむべきビールといえましょう。
 ランビックビールの中でもフランボワーズなどフルーツ系のものには、シャンパン型(フルート型/Champagne glass)の細長いものがよいようです。泡がグラスの底から立ち上っている様は見事です。

Straight glass ヴァイツェン型 ヒューガルデン・ホワイト シャンパン型

2.チューリップ型(Tulip glass/Semi-tulip)

チューリップ型

これはチューリップ(Tulip)の花の形をしたグラスです。グラスに注ぐと泡も出ますが、グラスの口がすぼまっているので泡が硬くせり上がってきます。最終的にグラスの口から少し盛り上がって注ぎ終わります。この形はワイン同様、グラスの中に香りが閉じ込められますので、ビールを飲むときは、時間をかけて十分香りを楽しみながら味わうべきビールに使用します。
 丸く膨らんだものはブランデー型(Snifter)と呼ばれ、BLONDやBRUNE、TRIPLEなどと表示されたビールはこの形状のグラスか次に紹介する聖杯型のいずれかのグラスで味わいます。デュベルのグラスがこれにあたります。

3.聖杯型(Chalice)

聖杯型
トラピストビールやアベイビールなど修道院に関連したビールの銘柄では、儀式に使用する聖杯の形をモチーフとした聖杯型(Chalices)のグラスを使用します。このタイプのビールは非常に芳香性が高いので、グラスの口をすぼめなくても香りがグラスの外に飛び出し広がります。グラスの中に鼻をつっこまなくても香りを楽しめるビールです。
 トラピストビールやアベイビールはこのタイプを使用します。オルヴァルのグラスがこれにあたります。

4.特殊型

歴史的な背景や故事からその形状になっているビールグラスやビールの原料に由来する形状などさまざまあります。

例えば、パウエル・クワックのグラスは木のスタンドがないとテーブルの上に置けません。昔、馬車の側面に木枠を取り付け、グラスが引っかかるように工夫をした実用性から生まれたグラスの形状ですが、現在では歴史的な形状ということから使用されています。

Charles Quintのジョッキ
3つの取っ手 青いものは4つの取っ手

マグカップ(ジョッキ)も一般的ですが、ちょっと変わったマグカップもあります。Charles Quint(チャールズ・クイント/シャルル・カント)というビールグラスの形状は、昔の言い伝えに基づく形状です。

「昔カール5世はあるレストランでビールを注文した時、宿屋の主人が大ジョッキの取っ手を持って渡そうとしたためジョッキを受け取ることができなかった。そこで、カールは主人に金のコインを与え、これを使ってもう一つ取っ手をつけるように指示。主人は早速それに従った。しかしながら、またしてもカールは大ジョッキを受け取るこができなかった。というのも、主人は今度は両方の取っ手を持ってしまったから。それならと、もう1枚の金のコインで3つ目の取っ手を取り付けた。しかし、今度は主人が3つ目の取っ手を自分の体に向けた状態でカールにジョッキを差し出してしまったため、結局カールは最後までジョッキを受け取れなかった。」

という故事から「3つの取っ手が付いたジョッキ」になっています。さらになぜか青いジョッキは取っ手が4つ付いています。

ベルギービールでは、ハチミツを加えたビールがよくあります。そうしたハニービールにはハチの巣を模ったグラスがあります。これは原材料をイメージしてグラスを決めたものです。

これらのグラスは、ある特定の銘柄専用にしか使用しませんがその銘柄のビールを味わいたいときには、ぜひとも欲しいグラスです。飾りにもなりますので、機会があれば入手したいグラスです。

馬車に取り付けられたKwakのグラス 蜂の巣型のグラス。ハチが多数とまっている。蓋をあけて飲みます。 Si.Idesbaldのグラスは托鉢

ベルギービールの魅力
酒蔵奉行所関連
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